代償としての私の特殊な能力
主人公は美沙子さんと並んで歩いた。
証拠に、ちらっちらっと覗く主人公の視線は美沙子さんを捕らえていた。
エレベーターの前で立ち止まるとボタンを押した。
それで、ここが6階だとわかった。
主人公と美沙子さんの間に会話はなく、主人公はボタンパネルの数字の点滅を見つめていた。
エレベーターが到着すると、美沙子さんも乗り込んだ。
エレベーターの中は暗かった。
主人公と美沙子さんは二、三、言葉を交わしたようだった。
1階は更に暗かった。
夕闇が迫っているようだった。
そうなって初めて、この暗さの理由を思い出した。
時間じゃなく、距離的に暗闇がそこまで来ているんだと思い知らされた。
エントランスホールで美沙子さんは頭を下げ、主人公を見送った。
建物の外に出ると少し明るくなったような気がしたが、それもつかの間で、次第に街は夜を迎えたように闇に包まれていった。