かんけりっ!
「別に。自嘲してみただけよ」
暗闇の中。ぼんやりとしかわからない部屋の荷物の配置に目を凝らし、『彼女』は『彼』に近づいていく。
そんな『彼女』に『彼』は一つ舌打ちをしてみせた。
しかし『彼女』は動じない。
自分が嫌われていることなど百も承知。
この部屋に来る度に、嫌み、罵り、舌打ちなど暴力を除いた悪意を受けているのだ。
けど別に彼女はそれが嫌ではなかった。
断っておくなら、別に真性のマゾじゃないし、それに『彼』を愛してるわけでもない。
ならばなぜ。
答えはとても簡単だ。
例えば、一匹の蟻が自分の靴に噛みついたとして誰が不快に思うだろう。
普通は気づかないし、気づいたとしても気にはしない。
『彼女』にとって『彼』はそう言う存在なのだ。