ポケットの恋
誰かが走ってくる、と思ったら、幸日だった。
公園を突っ切って帰ろうとしたらしい。
まっすぐこちらに向かってきた。
まだ古谷と真実には気付いていないようで、ブランコのすぐ近くまできて、ようやくはっと気づいた顔になった。
真実が声をかける前に、目をそらす。
そのまま走っていってしまった。
「どうしたの、あれ」
真実が幸日の走る後ろ姿を見ながら、呆然とした声で言った。
「…なんかあったねぇ」
「それはわかってる。」
言いながら駆け出す。
「あたしは幸日追うから!」
「ちょ…秋田?!」
一人残された古谷は、真実の後ろ姿を見送ると苦笑した。
「考える前に即行動、ね。」
古谷もマンションへ向かって歩き出す。
「秋仁はまーた、何やったんだか。」
呆れたように呟いた一言に、明らかな好奇心が滲んでいたのは言うまでもない。



「やっちまった…聞いてくれよ古谷…俺は…俺は…幸日ちゃんにキッスをせまっちまって……だっ…駄目です秋仁さん!よいではないかあーよいではないかあー、あーれー」
「…………………病人で遊ぶのやめろよ」
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