ポケットの恋
立ち上がろうとした幸日の手首を掴む。
幸日の柔らかそうな髪がふわりとなびいた。
「本気…なんだけど。」
幸日は目を見開いた。
その反応に、思わず腕の力が緩む。
束縛が緩くなった彼女の手首は、あっけなく離れて行った。
俺は、余程呆然とした顔をしていたんだと思う。
幸日はどうしたらいいのかわからないという顔をして
――顔をして。
「お粥…食べてくださいね」
小さい声で、それだけ呟いた。
気がついた時、玄関の戸の閉まる音が耳の奥で鳴った。
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