夜  話  
その後、エンが子供を産んでも。


エンの夫である王子が何者かに暗殺され隣国との戦争が起こっても。


その中でクーデターが起き、父王が失脚しても。


エンは変わらずに部屋から出ることのないまま、静かに自分の運命が他人の手によって決められて行くのを待っていただけだった。


「逃げ出す勇気もないのよ。」


落ち着いた淑女になっていたエンは、そう言って微笑んだ。


それは俺が何度も目にしたことのあるエンの笑顔の中で、一番悲しそうで、一番はかなげで。


一番気高く思えた笑顔だった。
< 271 / 414 >

この作品をシェア

pagetop