夜  話  
「コウ。…来てくれたのね。」


浅い息の中から彼女は言葉を紡ぎ、俺を迎えてくれた。


「良かった。月の通じる日に逝くことができて。」


そう言って微笑むエンに、俺は何も言えないまま彼女の枯れたやさしい手を、そっと握った。


「初めて貴方に出会ったとき、お月さまの光に白く浮かび上がるように見えた貴方は、とても手の届かない孤高の存在に見えたわ。
まるで絵の具箱のなかで、いつまでも減らなくて真っすぐに立っている白の色鉛筆のように。」


でもね、と苦しそうに息を継ぎながら。


それでも嬉しそうに、夢見るように瞳を潤ませて言うエンを、俺は止めることが出来なかった。
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