夜  話  
「良い薫りだな。」


突然聞こえた声に、わたしは手にしたマグカップを取り落としそうになりながらも、はじけるように顔を上げました。


「皎!」


わたしが気付かぬうちに、悪戯な笑みを浮かべた月の使いはいつのまにか現われていて、音もなく窓のすぐ外を飛んでいたのでした。


「あなたって、いつも突然現われるのね。」


わたしがそう言うと、ふわり、と部屋の中へ身を移しながら皎は答えました。


「そうか?月が出るのと同じぐらいには突然じゃないはずだがな。」


すました顔でそう言う皎は、こにくい程に整った顔でわたしを覗き込みます。
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