夜  話  
あの夜。


わたしは確かに、皎の声を聞いた筈なのです。


次の月の夜の逢瀬を約束する、皎の声を。


それなのに、あの夜から一度も。


皎はこの窓辺を、訪れてくれてはいないのでした。


わたしは小さく吐息を吐くと、窓辺へと寄せた椅子に腰掛け、窓枠にもたれかかって山の上にかかった月を見上げました。


まだ、夜になれば少し冷え込むとはいえ、心地よい陽気は、夜空の色も柔らかく染めかえていました。
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