追憶 ―箱庭の境界―
「…それで?マルクは、いつまで隠れているのかしら?」
「あぁ、気付いていましたか?」
彼女の不機嫌な声に青年は呆れた様に「ふふ」と笑うと、2人の座る白いベンチへ近付いた。
「嫌ね。気付いていないと思ったの?貴方の匂いだけは分かるのよ、あたし。」
其の発言に、彼女を口説いていた男がムッと顔をしかめた。
(…誰でしたかね?この顔は見た事があるのですが…)
先程聞いた名すらも思い出せない男に、青年は配慮を見せる言葉を掛けた。
「…大事なお話の途中かと思いまして…、遠慮していたんですよ?」
「あら!大事なお話だなんて。貴方以上に大事な事なんて、あたしには無いのよ…?」
(…意地悪ですねぇ…)
青年がチラリと男を見ると、戦意喪失したかの様に呆れ顔で居心地が悪そうに笑っていた。
「…マルク、お前の周りは選り取り緑なんだから、1人位は譲ってくれよ…」
「いえ、そんな…。申し訳ありませんね、邪魔をしてしまって。えぇと…」
「――ジャンだよ。何度か会ってるだろ!?覚えてくれよ…」
男は度重なる自分の存在否定に、「やれやれ」と両手を上げた。