Salvation 〜救い〜

アパート 1

もう真夜中近いというのに

大通りに出ると

目の前は一気に明るくなった。



行き交う車のヘッドライトや

ネオンの灯りがまぶしい。



まだ仕事をしている人間がいるのか

ビル群にはところどころ

照明がともったままだ。



まがまがしいオーラをまとった

トシキの全身は

それらの灯りで煌々と映し出されてしまっている。



天然っぽくカールした前髪は

鼻の下くらいまで長い。



ところどころこびりついた血のりは

部分的に固まり始めている。



その前髪の下の表情はよくわからない。



しかし、かなり細身の顔立ちのようだ。



ほおはこけており

あごは少しとがっている。



殴られたあとであろう

血の滲んだままの薄い唇は

精悍さと凶暴さ両方の印象をあたえる。



「Los Angels」と背中に文字の入った

ブラウン色のジャンパーは

左腕の付け根の辺りから

すそのほうまで破れてしまっている。



最初につかみかかってきた男がやったことだろう。



そのジャンパーのいたるところに

どろと吐瀉物と血のりが

得体の知れないモザイクのような

模様を作り出している。



同じような模様はジーンズにもあるが

濃紺のデニムのため

それほど目立ちはしない。



しかし

終電をのがすまいと駅へ急ぐ人達は

トシキのまとっている

どこか不吉な雰囲気を嗅ぎ取っているのか

トシキの横を

大きくう回して先へ向かっていく。



そんな人々に全く目もくれず

トシキは背を丸めながら大股で歩き続ける。
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