なんでも屋 神…第一幕
そう言って事務所に入ってきたのは、白髪も禿げ上がった初老の男性だった。



一葉は慣れたように[トレイン]に電話して、ブレンドを二つと自分用の絞りたてグレープフルーツジュースを頼んだ。



「私は街外れにある小さなネジを作る工場を経営していました。経営していたと言うのは、今度の決算で倒産する事が決まったからです…。」



目の前に座っている男性は一ノ瀬守。この不景気で銀行から融資を断られ、闇金に手を出して何とか毎月凌いでいたが、もう限界ですと力なくうなだれながら語った。



「…夜逃げですか?」



夜逃げと言う言葉に、横に座っていた一葉は戸惑いの表情を見せた。



中学生でリアルな夜逃げを見るのは、滅多に出来る経験ではない。



「従業員には僅かながらの退職金を給与に混ぜて渡したので、正直依頼する金もあまり有りません。」



俺は静かに頷き、少しの間目を閉じて絵を描いた。



…いけるだろうか。
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