ブラッティ・エンジェル
出会いは急に…
 「ふぅ。これで今週の分は、全部終わったぁ。」
「おつかれぇ〜。」
彼女は一週間の仕事を終え、東京の人ごみの中を、軽い足取りで歩いていた。そんな彼女は、とても人間の目を引く。
 黒で統一されたパンツスタイルは、胸にある十字架のネックレス以外に目立った飾りはない。むき出しにされている太ももを覆い隠すくらい長いコートは、歩くたび風になびく。同じようになびく暗めなプラチナブランドの髪は、特に。何より顔が目立つ。透き通るくらい白い肌。おてんばさを現す空色の目。どこをとっても素晴らしい。
 しかし、彼女の背には普通の人間なら見えない、翼がはえていた。
 彼女、サヨは天使だ。
 今は仕事を終え、ただ東京の街中を歩いていた。
「なぁ、サヨ。温泉行こうぜ。」
彼女の肩に乗っている、三〇センチメートルぐらいの小さい少年が、ブロンドの髪をなびかせながら、満面の笑みで話してきた。彼の青い目に、サヨの思案顔が映る。
 彼はユキゲ。天使見習いと言って、天使なら誰でもとおる修行時代。天使のサポートをして、ノルマを達成すると、天使に生まれ変われる。
「見習いのくせに、生意気言って・・・。でも、温泉かぁ〜。いいかも。いつか、温泉巡りしたいなぁ〜。」
サヨは大の温泉好きで、週に行かない日はなく、日本の温泉は、ほとんど制覇しただろう。
 いつか、長期の休暇でも取って、世界の温泉を制覇に行こうかと考えている。
「温泉巡りはいいけど、そういうのはさ。オレが天使になってから・・・。」
「ヤダ。」
サヨはユキゲの言葉に重なるぐらい、即答した。きっぱり言いはなったサヨの横顔を、ユキゲは目を据わらせて見る。
「ユキゲが天使になるまでお預け、なんてヤダ。それに・・・、天使になれるかどうかもわからないのに・・・。」
サヨはわざとらしく、額を押さえて嘆く。まぁ、あくまでふりだが。
 ユキゲはくわりと牙を剥いて、立ち上がる。
「なれる!あぁそうだとも!一日でも早く、天使になってやる!そもそも!」
呆れ顔をしていて、うるさいと耳をふさいでいるサヨを、ユキゲはビシッと指さす。
「オレがいつまでも見習いでいるのは、天使であるお前が悪い!」
「はぁ!?意味わかんない。なかなか天使になれないからって、その責任をひ」
「天使!?」
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