-roop-
誠さんの手が止まった。
二人の空気が止まった。
なのに無情にも、誠さんが持つ煙草の煙だけが夜風にサラサラと流されていく。
フゥッ…
誠さんが吐いた煙が夜空をかすめる。
「聞いて………辛くない?」
静かに視線がぶつかる。
「…前の自分のこと聞いて……千夏は…辛く…ない…?」
優しい瞳…優しい声…。
誠さんは私の全部を包んでくれる。
もしこれが
『前の彼女もこうやって手料理作ってくれたの?』
だったらまだ良かったかもしれない。
だけど千夏さんは『前の』人なんかじゃない。
誠さんにとって千夏さんは…前でもあり今でもあり…
そしてきっとこれから先も…ずっとずっと愛し続ける人…。
「…でも……聞きたい…」
私は小さく言葉を落とした。
辛いのはきっと貴方。
けれどその貴方は、私の方が辛いと思ってる。
私のことを…千夏さんだと信じているから…。