-roop-

「…今の…千夏もだよ…?」


耳元に響く少し、恥ずかしそうな声…


「…お前が笑ってくれるだけで……傍にいてくれるだけで……本当に俺は…何度だって救われた……」


「『私』……?」


ふと身体を離して、互いの瞳を見つめ合う。

誠さんは愛おしむように私を見つめ、優しく囁いた。




「…今のお前も………俺の生きる理由だから……」




今の…千夏さんも…『私』も…?


私は信じられないといったような顔で誠さんを見つめる。



「わ…私……出逢った時のこと……覚えてないんだよ……?」


誠さんは優しく頷く。


「誠さんが……どうやって私を救ってくれたのか……知らないんだよ…?」


「…あぁ……」


「それでも……そんな私でも………」


「くっ……」


誠さんは急に吹き出して笑った。


「な…?」

キョトンとする私に、誠さんは小さく笑いを堪えながら言う。



「なんか……前にもこういうことがあったなぁ…?」


「あ……」





--『私…誠さんのこと覚えてないんだよ…?』

『…うん』

『想い出もないし…煙草だって吸えないよ…?』

『うん…』

『それでも……それでも私が目を覚まして…っ…嬉しい…?』--




分かる…覚えてるよ……。

『私』と誠さんにも共通の想い出があるんだ…。

『あの時』…そう言って伝わる場面があるんだね…。


『私』が消えた後も、少しでいいから…ほんの少しでいいから思い出してくれますか…?

偽物だけど

まがい物だけど

それでも愛した人として



『私』を…思い出してくれますか…?

< 223 / 293 >

この作品をシェア

pagetop