-roop-
「あっ!こら美樹ちゃん!ここ違うでしょ!も~すみません~」
「ママー」
扉を開けたのは、まだ3歳くらいの可愛い女の子だった。
その後ろから慌てて飛び込んで来た若い女性は、女の子を抱きかかえて苦笑いしながら丁寧に頭を下げた。
「あ、いえいえ!ばいば~い」
誠さんは笑顔で母親に応えると、彼女の腕に抱えられてキョトンとしている女の子に手を振った。
女の子は少しの間じっと誠さんを見つめて、そしてニッコリと笑った。
「…ばいば~い!!」
笑顔で手を振り合う二人を見て、私はとても温かい気持ちに包まれていった。
そのやり取りに、申し訳なくて苦笑いしていた女性までもにっこりと笑みを浮かべ、もう一度頭を下げて部屋を出て行った。
会ったばかりの女の子と、申し訳なさそうにしていた女性を、あんな素敵な笑顔にした誠さん。
自然と誰かを笑顔にできる、優しい人だと思った。
千夏さんも…彼のこんなところが好きだったのだろうか…
「いや~可愛いっ!!いいな~子供っ」
表情をとろけさせながら言う誠さんに、思わず笑みが零れた。
私が笑うと、誠さんは安心したような穏やかな表情を浮かべる。
そして私もまた、その表情に何処か安堵していた。
彼が優しい人だと分かっていく度に、彼を騙している罪が重くなり、私はただ彼のその安堵の表情を求めるようになっていた。
笑顔で部屋を後にした親子の姿を思い出していると、ふとあることに気付く。
それは聞かない方がいいことなのかもしれない。
私が質問することで、記憶を取り戻そうとしていると、誠さんにまた無駄な期待を持たせることになるのかもしれない。
けれど、気付けば言葉を発していた。