-roop-
「あの……誠さん…?」
「ん?」
私の呼び掛けに優しく応える彼の表情に、また少し躊躇した。
私はゆっくりと口を開く。
「わ…私の…お母さん…とお父さんって…」
「……」
誠さんの表情が…曇った。
千夏さんのお父さんとお母さん。
娘の意識が回復したというのに、病院に駆け付けるどころか、一切の連絡さえない。
私の病室を訪れるのは、先生と看護婦と…誠さんだけだった。
誠さんは悲しそうに笑う。
「……無理して…思い出そうとか…知ろうとしなくていいんだよ…?」
誠さんは、すごく私に気を遣ってくれている。
どんなに頑張っても、千夏さんという他人の記憶が分かるわけのない私にとって、それは好都合のはずだった。
けれど、本心を隠して気を遣う彼の悲しい笑顔に、私の胸は痛んだ。
誠さんはベッドの手摺りをギュッと握ると、また精一杯の笑顔を浮かべる。
「でっ、でもそうだよな!自分の親のことくらい知っとく権利あるよなぁ!うん!」
「誠さん……」
誠さんは悲しい笑顔の名残のまま、小さな椅子に腰かけた。
「…そっか、娘の意識戻ったってのに…病院に来てないから…?」
誠さんは、私が急に親の話題を持ち出した理由を静かに尋ねた。
「うん…」
私を見てにっこりと笑うと、誠さんは少し俯いた。