空色幻想曲
「じゃあ、卒業した後は?」

 後も何も、卒業後は入団試験を受けて即合格したから『今』しかない。男ばかりのむさい状況はあまり変わってないのだが……。
 どうも会話が噛み合ってない気がする。

「……なぁ、俺をいくつだと思っているんだ?」

 不意の質問に「え?」と彼女はしばらく考えて

「……24、5くらい?」

「18だ」

「ウッソ──っ!!」

 もの凄く失礼な叫びに、流石の俺もこめかみが引きつる。

「随分だな」

「若くても絶対20は超えてると思ったのに……」

 遠慮のない無邪気さの前では怒るのも馬鹿馬鹿しくなった。

「よく言われる……。もうすぐ19になるけどな」

「えっ、誕生日もうすぐなの? いつ?」

「2の月、風の日だ」

「ホントにもうすぐじゃない。お祝いしないとね!」

「王女が騎士にか?」

 驚いて問いかけた俺よりも、さらに驚いたような不思議そうな顔で返す。

「『おめでたい日』なんだから、だれがだれを祝ったっていいじゃない!」

「お前らしいな……」

 つぶやきながら口元が自然とゆるんだ。

「ほしい物ってある?」

「なんでもいいのか?」

「もちろん! あ、常識的な範囲でね」

「大きな声では頼みづらいんだが……」

「え、なになに?」

「耳を貸せ」

 素肌にマントという恰好だというのに好奇心のほうが勝ったのか素直に歩み寄ってきた。なんと無防備な。いかにも興味津々という顔で耳をそばだてるあどけなさが、いたずら心に火を点けた。

 耳元にかろうじて届く息だけの声で、密やかに囁く。
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