空色幻想曲
(●△■☆◆○▲□★◇※◎──!?)

 筆舌に尽くしがたい奇声を上げる寸前で呑み込んだ。

 ──見てはいけないものを見てしまった。

 彼女にマントはかなり大きい。襟ぐりが広くて胸の谷間がチラリと見えるどころではない。全部肌蹴るスレスレまでずり落ちている。

 先ほどまで焚き火の向こう側にいて、彼女をなるべく視界に入れないようにしていた。そばに来て初めて、あられもない姿を直視したのだ。

(こ、これはなんという目の保養……いや、目の毒だ)

 瞬きもできなくなる。

 夜のとばりが下り始めてあたりはもう薄暗いというのに、白い肌がやけにハッキリと映し出されているのは橙色の灯りのせいか。余計に艶めかしく感じられる。

 起こさなければいけないことはわかっている。

 けれど、ゼンマイ仕掛けのゼンマイが切れてしまったように手を宙に浮かせたまま俺は止まっていた。もしも今ピクリとでも動いたら、正直どんな行動に出るかわからない。

 動きたくても動けない。
 声も出せない。
 止まるしかないのだ。

 しかし哀しき男の性か、目はしっかり奪われたままで。1㎜も引き剥がすことができずにいた。

「ん……」

 小さく掠れた声。
 起きるのではないかと、それだけで心拍数が異常なまでに跳ね上がった。

 だが、わずかに身じろぎした後、また規則正しい寝息を立てている。

 目が覚めなくて、心には『困惑』と『安心』という相反する二つの感情がマーブルのように混ざり合っていた。

 覚めてくれたらこの状況から解放される。覚めたら覚めたで、この体勢はどう考えても襲おうとしているようにしか見えない。

 今の俺には上手い言い訳も思いつかない。ただ起こそうとしただけなのだが、説明して信用してもらえる自信もない。襲いかけているのは事実な気がする。
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