空色幻想曲
「ティアニス王女……」

 もう一歩、彼女に近づくと

「来ないで」

 拒絶の言葉が放たれた。強くも弱くもない平坦な声でいまいち感情が読み取れない。

「泣いているのか」

「泣いてない」

「怒っているのか」

 ──足手まとい扱いした俺を。

「怒ってない。……でも怒ってる」

「自分自身に……か?」

 返答はないが、沈黙は肯定だろう。自分の何に怒っているのか、なんとなく予想はつく。が、掛ける上手い言葉が見つからない。何を言っても空々しく響きそうだ。

「ごめんなさい……」

 迷っていると、ティアニス王女のほうから弱々しい謝罪を口にした。

「何を謝っている」

「私、結局……なんにもできなかった。せっかく稽古つけてもらったのに、手足がすくんで動かなかった……」

「そんなものだ」

「あなたの言うとおり。仇を討つどころか自分の命すら護れなくて、みんなの足手まといになっただけだった……!」

 闇を彩る空色が風に(さら)され振り乱れる。

「“慈愛の女神”だなんて言われたって私にはなんの力もない! 誰かを助けることも護ることもできない!!」

 叫びながら王女は自分の髪を強く握り締めた。

「おい、何をする」

「なのに……どうしてみんな私を護るの!? みんなが命を懸けて護る価値なんてないのにっ!!」

()せ!!」

 髪が抜けんばかりに引っ張る手を強引に掴んだら、勢い余って二人一緒に倒れ込んでしまった。草叢(くさむら)に押し倒した状態で、向き合う。
< 343 / 347 >

この作品をシェア

pagetop