空色幻想曲
「……なんて顔をしている」

「見ないで……」

 (そむ)けた顔を草に(うず)めながら呟く。威風堂々とした王女の、こんなにもか弱い様を見たことがあっただろうか。

 いいや、今は王女ではない。女神という重荷を背負わされ、護られる存在価値を求め、独り傷つき震えた女の子だ。

 俺は、掴んでいた腕を(ほど)いて体を起こす。今度はその手で、座り込んだままの彼女を自分の胸に寄せて

「リュー……ト?」

 ほんの少しビクリと震わせた体を、強く、抱きしめた。

「泣け、ティアニス」

 下手な慰めの言葉は不要だ。

「自分が王女であることなど忘れて、泣けばいい」

 今はただ、泣き方すら忘れてしまった女の子の涙を受け入れる場所でありたい。

「女神じゃない。俺が護りたいのは──」

──お前だよ、ティア。

 秘密のように囁いた。
 神に誓う必要も、月に捧げる必要もない。小さくても君にだけ届けばいいから。


 どうか──泣いてくれ。



 ──……

 やがて。

 凪いでいた風がざわざわと騒ぎ始める。
 抱きしめる肩が小刻みに震えて

「──────っ‼︎」

 強い、強い、風とともに慟哭が上がった。
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