君の声が聞こえる
それで親友だなんていえるのだろうか?

言葉だけの『親友』に何の意味がない事くらい私にも分かる。

黙り込んだ私と考え込んでいる雅巳のお母さんの間に苦い沈黙が流れた。

机の上で冷えていた麦茶のコップが、汗をかいて水滴が流れ出しても、私たちは何も言えないでいた。

ただ私の心の中では、ある決心が固まりつつあった。


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それから雅巳が帰ってきたのは一時間ほどしてからだった。

雅巳の母親は雅巳と入れ違うようにして、仕事の準備を始め、出て行った。雅巳は私が待っていた事に驚きを隠さなかった。

雅巳の母親が用意してくれた昼食を囲みながら、私と雅巳は何も話さなかった。

昼食の片付けをしながら私が「話したい事があるの」と言うと、雅巳は一瞬だけ眉を吊り上げて「うん」と頷いた。

話す内容を感じ取っているような返事だった。

片付けを終え、雅巳の部屋で二人向かい合う。

雅巳はベットの上に腰をかけ、私は絨毯の上に座り雅巳の顔を見つめていた。

「話したい事って何?」

 その言い方は私の話したい事の内容を察しているようだった。

「雅巳、加藤君と喧嘩したの?」

「喧嘩?してないよ」

「じゃあ、何で最近、加藤君の事、避けているの?」

「避けているように見える?」

「見えるも何も。避けているじゃない!」

 私の怒ったような言葉に雅巳は大きな目を伏せた。

「良枝に分かってしまうようでは、私もまだまだね」

「雅巳!」

「ああ、怒らないで。私、別にあなたに心配かけるつもりじゃなかったの。ごめんなさい」

 雅巳の言葉に、私の感情が爆発した。
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