君の声が聞こえる
初めは突然現れた父親に戸惑っているのかとも思ったけど、そうじゃないみたい。だから、塩谷さんのお葬式に来たあの男の子が原因かなって思ったわけ」

 鋭い。鋭すぎる。私が何も言えないでいると、雅巳のお母さんは肩を竦めた。

「別に良枝ちゃんを責めているわけじゃないんだから、そんな顔しないで。なんだか私が悪者みたいじゃない」

 この時、私は一体どんな顔をしていたんだろうか?

 きっと青い顔で、この鋭すぎる美貌の女性から目をそらす事が出来なくなっていたんだろう。

「……私、何も知りません。雅巳は何も言ってくれないし」

 やっとの思いでそう答えると雅巳のお母さんはそうでしょうねえ、と至って簡単に納得してくれた。

「あの子は自分の事を誰かに相談する子じゃないから、良枝ちゃんから何を聞き出そうというわけじゃないのよ。ただあの男の子と雅巳が、いつから付き合っているのか聞きたかっただけ」

 雅巳のお母さんの言葉を聞きながら、ズキンと胸が痛んだ。

 今、気付いてしまった。

 今さら気が付くなんて自分でも間抜けもいいところだと思うけれど、雅巳と出会ってから今まで、一度だって雅巳は私に相談事を持ちかけた事はない。

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