君の声が聞こえる
黙って逝かれたら睦月君は一生立ち直れないだろうという気持ちもあった。

「それに私は睦月君に雅巳との時間を大切にして欲しかったのよ」

今までも睦月君は雅巳を大切にしてくれていたのは分かっている。でもそれ以上に大切にして欲しかった。

私の言葉に雅巳は意を衝かれたように目を見開いた。

そして雅巳の大きな瞳からボロボロと大粒の涙が流れ出し、悲鳴のような叫びを私は聞いた。

「お母さん、私、まだ生きていたい。赤ちゃんと睦月と生きていきたいよぉ」

絶対に睦月君や良枝ちゃんには見せなかった弱い雅巳の姿がそこにはあった。

私はその時、かつての決断は間違っていたのではないかと後悔した。

雅巳が何と言おうとどんな方法を使ってでも海外で移植手術を遂行するべきだったのではないだろうか?

そうすれば雅巳はもっと生きられたかもしれない。

「ごめんね。雅巳」

そう言わずにいられなかった私に雅巳は首を振った。

腫上がった目で私の顔を見あげた雅巳はハッとしたように私から離れて両手で顔をゴシゴシした。

「ごめん、そんなつもりじゃなかった……」

我に返った雅巳はいつも通りの雅巳だった。

雅巳の理性が感情を表に出したことを恥じている。
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