レンズ越しの君へ
どうしよ……


まさかお客相手に、『恋人です』なんて言えるハズが無くて…


「あっ、兄ですっ……!」


言い訳を考える前に、咄嗟にそう言ってしまっていた。


途端、廉は一瞬だけ眉をしかめたかと思うと、不自然過ぎる作り笑顔を見せた。


「妹がいつもお世話になっています。じゃあ、俺は急ぎますので、これで失礼します」


淡々と話す廉の声は、いつもよりもずっと低くて…


それは彼が明らかに不機嫌である事を、どんな言葉よりも雄弁(ユウベン)に物語っていた。


「あのっ……!じゃあ、あたしもこれで!失礼します!」


慌てて頭を下げながら言った後、あたしの顔も見ずに一人で歩き出した廉の後を追った。


「廉、待って!廉!」


自分の発した言葉を恨めしく思い、大きな後悔を抱えながら必死に彼の事を追い掛けた。


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