レンズ越しの君へ
廉が仕事を『頑張れ』って言ってくれたのは、初めてだった。


彼氏なら、キャバの仕事が嫌なのは当たり前。


独占欲がすごく強い廉は、この仕事を特に嫌がっていた。


だから…


いくらあたしが店を辞められる事になったとは言え、廉がそんな言葉を掛けてくれるなんて思ってもみなかった。


「ありがとう……」


廉から体を離して、精一杯の感謝の気持ちを込めて彼の唇にそっとキスをした。


「それだけ?」


唇を離すと、廉が不満そうに眉を潜めた。


「え?」


「さっさと片付けろよ!夜はこれからなんだからな?」


廉は悪戯な笑みを見せてから、ソファーに戻った。


あたしは幸せを噛み締めながら、夕食の片付けを済ませた。


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