先生……
先生はあたしが使ったいたコップと先生のコップを素早く洗うと、あたしに笑顔を向けた。

「じゃあ、行きましょうか。」

「え?」

「ほら、ね?」

ドキン。

差し伸べられた右手。

それが何を意味するか、わからないわけない。

ここで右手を出すのは、簡単だけど難しい。

でも、一歩前へ。

先生は連れてってくれるでしょう?

ううん、先生はいつだってあたしの事を考えてくれてる。

だからその右手は、あたしが前へ進む為のきっかけにすぎない。

自分の足で、前へ。

進まなきゃ。

「はい。」

きゅっ。

差し出した右手はしっかりと、でも優しく握られた。

ゆっくり、握り返す。

ほんの少し、恥ずかしさを添えて。

目指す場所は一つ。
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