Devil†Story
「実は…先日、そこのカフェのミニイベントに行ったもので…それでもしかしてと思って聞いたんです」


女は何処か恥ずかしそうに話した。確かに先日は俺とロスがバイトした次の日にイベントをしていた。来週のイベントの宣伝の為に実施した物なので、大きなイベントではなかったがそれなりに集客数があったと刹那が安堵したように言っていたのでこの女が来ていても何ら不思議ではなかった。


「あー!やってましたね!行ってたんですねー!ありーーオレ達も行きたかったんですけど行けなくて」


「えへへ」と息を吐くように嘘をつく稀琉。…今、ありがとうございますって言いそうになってただろ。こいつはこういう所があるから安心して見てられねぇんだよな…。俺は溜め息をつきながら再び歩き出した。


「でも…良かったです。おふたりに運良くお会いできて……本当はとても心細くて…。ほら、この辺り怖い噂が多いから…」


"怖い噂"というワードに一瞬固まる稀琉。それに気付かない女はそのまま話を続ける。


「女の幽霊が出る…でしたっけ。本当はそういうの怖くて……。おふたりは肝試しか何かでいらっしゃったんですか?」


「え…ええ。そっそうなんです。かっ彼がそういうの好きで…あはは…」


稀琉も先程の恐怖を思い出したのか、帽子に触れながらぎこちない笑顔で答える。…声が裏返ってるぞ。それに誰がそういうの好きだっての。適当な事ばっか言いやがって。


「…何かに引き摺られるように連れて行かれる…なんて怖いですよね…。私は女なので拐われないのかもしれませんが…」


まるで指に何かを引っかけるように指を動かす女性。稀琉の顔色は段々と青ざめて来ている。


「とっとにかく!こんな怖い所は早く出ちゃいましょう…!」


足早に進む稀琉が扉を開けるとそこは外から見ていた場所だったようで窓辺に先程見た女性が吊るされていた。


「ののかちゃん…!」


女が駆け寄ろうとするのを稀琉が制した。


「オレが行きますから貴女はここで待っててください」


稀琉の言葉に頷く女性。稀琉が何歩か歩くと女は緊張の糸が解けたのか俺の方に倒れてきた。


「チッ…」


反射的に受け止めてしまった事に思わず舌打ちをする。触ってんじゃねぇぞクソが。汚ねぇな。だがここで避けてギャーギャー騒がれるのも面倒だ。俺の舌打ちを聞いた女は「すっすみません。安心したら力が抜けてしまって…」と離れた。


「うわっ!?」


稀琉の声に前を向くと何故か稀琉は転倒してきた。結構勢いよく転んだようだ。


「何してんだよ。何もねぇところでコケるとかじじぃかよ」



「いたたた…。いやなんか足に引っかかってーー」


稀琉が起き上がりながらそこまで言いかけた時だった。



ーーグンッ



「わぁ!?」


「!」


起き上がろうとした稀琉は何かに足を引かれたように再び地面に倒れ込んだ。そして何かに引き摺られるように勢いよく後ろに引かれた。


「えっえ!?うわぁぁぁ!!まっ!待って!!本当にお化け!?ちょっ…!無理無理無理!!!」


ズザザと音を立てて物凄い勢いで引き摺られていく。


「お兄さん!?」


手をついて抵抗するのも虚しく、そのまま稀琉は窓の方に引きずられ宙吊り状態になった。


「嫌だぁぁあ!取り憑かれて死ぬのは絶対嫌ー!!助けて!クローー」


ーーキラッ


「!」


絶叫と共に稀琉は屋根の上に連れて行かれてしまった。その刹那何かが日光に反射したのをクロムは見逃さなかった。


「あぁ!そんなッ…!」


女は悲痛な声を上げながら稀琉が消えた窓を見ていた。



「………」


「どっどうしましょう…!?このままではお兄さんが…!」


「助けに行かないと…!」そう言って女が左手を引くように窓へ指差そうとした瞬間。


ーーガシッ!


「!?」


俺は女の腕を掴んだ。女は驚いたような表情をこちらに向け、俺の目をじっと見ている。


「あっ、あの…」


「……下手な芝居は終いにしたらどうだ」


「えっ…?」


「"それ"を引こうってたってそうはいかねぇぞ。俺はあいつと違ってお人好しじゃないんでね」


女の左手首の腕輪から出て、俺のコートの引き手に繋がっていた糸を指差してから女の手首を引いて腕輪を取り放り投げた。そのまま掴んでいた腕を払い、引き手についてた糸を解く。それを見た女の目が大きく開かれた…がすぐに。


「…フフッ。バレちゃった」


ニヤリと卑しい笑みを浮かべ、首の皮を摘むと引っ張った。


「…やっぱりな」


ビリビリと布が破けるような音と共に首のタトゥーが露わとなる。そこにあったのは蜘蛛のタトゥーであった。
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