Devil†Story
「迫真の演技だったと思ったのに…いつから気づいてたの?」
先程までのか弱い雰囲気は消え去り妖艶な笑みを浮かべた女は俺から距離をとって人差し指を唇に当てた。
「初めからだ。普通…こんな汚ねぇところにアンタみたいな女が1人で来ないだろうからな。勉強不足だったな」
クロムは初めから疑っていた。いくら後輩の為だからと女がボーイも連れずに1人でここまで来ていたところから。それも怪しい噂が流れている先輩が絡んでいるのにも関わらずに1人で来ていた事に疑問を覚えていた。
「あらそれは偏見かしら?女はそこまで弱くないわよ」
「それだけじゃない。アンタ捕まってた割に手足にロープの跡がついてなかったからな。すぐに捕まったにしろだいぶきつく拘束されてたのにも関わらずな」
先程稀琉がロープを解いた時。硬く結ばれていたのを横目で見ていた。あれだけきつく結ばれていれば女性の細腕に跡をつけるには充分すぎる程の筈だったが彼女にはそれがなかった。
「わざわざ手を摩ったのに…目敏い子ね。君達外でこっちの様子伺ってたでしょう?その時に本当に助けるフリでもすれば良かったわ」
「…嘘つくなよ。アンタ助けるフリしてただろ。俺が来る前にさっきの連れがアンタの姿を見たって言ってたぞ」
「いいえ?行ってないわよ。あんな汚い所に入らなきゃならないのにそんな暇ないもの」
「…?」
俺は女の回答に疑問を抱いた。…稀琉の奴さっきこいつを見たとか言ってなかったか?女の様子から嘘をついている様には見えない。チラッと窓辺の方に目を向け、目を細める。……あぁ。なるほど。そう言う事か。謎が解けた俺は再び女に視線を戻した。
「どうしてそれに気付いたのかしら?見えないように透明のケブラー糸を使ってたのに」
腕輪を指差しながら女は笑った。ケブラー糸は防弾チョッキ等にも使用される頑丈な糸だ。それを使えば稀琉の体を引っ張る事は可能であった。
「さっきあの馬鹿が連れてかれた時に光ってんのが見えたからな。その前にわざとらしく稀琉に触ってたのも、俺にわざと寄りかかったのも仕掛ける為だろ。動きも糸を引くような指の動きしてたからな。詰めが甘いんだよ」
「そう…本当に目敏い子ね。でも現実的じゃないんじゃない?私が気付かれないように糸をつけるのも、引くような動きをしてたって言っても私は女よ?いくらあの子が太ってなくても手だけでは引っ張れないわよ」
確かにいくらケブラー糸を使用していたとはいえ彼女の腕は細く、それなりに体重のある稀琉をさっきのように引き摺り屋上まで上げる事は不可能に近かった。
…そう。人間であればだが。
「…言ったろ?"勉強不足"だって。…アンタ人間じゃねぇんだろ」
「!」
「…ケブラー糸は囮だろ。その糸とアンタから出てる糸…光り方が若干違うんだよ。1人で来た事や動き、雰囲気…人間の真似してるつもりだろうが、演じきれてねぇんだよ。生憎俺の側にも"人間のフリ"してる奴がいるんでな。嘘ついてる動きかどうか見りゃ分かるんだよ。アンタ麗弥を連れ去った女だろ?そろそろ正体を現したらどうだ?丁度アンタがあの怖がりを連れ出してくれたからな。こっちとしても好都合だ」
挑発するように問いかけると女はニヤリと笑ってピアスを外した。ピアスが音を立てて床に落ちると明らかに人間ではない気配がその場を包み込み、先程の甘い香りが強くなった。
「単刀直入に聞く。…あの眼帯の馬鹿は何処だ?さっさと答えねぇと…楽に殺してやらねぇぞ」
剣を抜いて女に突きつけると更に女は卑しい笑みを浮かべた。
「そこまでバレてるなんて…。それにこの私を脅すなんて恐ろしい坊やね。そうよ。私は"蜘蛛"よ。だからさっきの帽子の坊や位簡単に運べるわ」
手の平から糸を出し、背中から蜘蛛の足を出した女の口から牙が見えた。その瞬間、俺の背中には寒気が走る。
「…ゲッ…蜘蛛かよ…。糸出してるからもしかしてとは思ったが…。気持ち悪りぃ」
「あら。蜘蛛を馬鹿にすると痛い目に遭うわよ」
カサカサカサ…。
女が足を動かす度に気色の悪い耳障りな音がする。その音が耳に届く度に全身に鳥肌が立つのがよく分かった。
「その足しまってくんねぇか。見てるだけで気持ち悪い。クソッ…こうなるんなら稀琉の代わりに俺が屋上行けば良かった。虫ケラの相手なんて鳥肌が立つ」
「ウフフ…口が減らない坊やね。貴方みたいなきれーな子は美味しいから食べちゃいたいけど…ダメね。ヤナ様に連れてくるように言われているから。代わりにさっきの帽子の坊やを食べる事にするわ」
「…ヤナ様?黒眼鏡の事か?」
女の口から別の名前が出た。やはりこの女は黒眼鏡の部下だったようだ。
「そうよ。あぁ、そしたら今捕まえてる眼帯の子も食べてしまいましょう。あの子も美味しそうだしね」
カサカサカサカサ…
足の動く音に鳥肌が更にたった。ある意味早く終わらせねぇともたねぇ。
「…気持ちわりぃんだよ、虫ケラババア。先にその不愉快な足を切り落とさせて貰う」
「バッ!…本当生意気な坊やね!そもそもこんなのんびり私の相手してていいのかしら?あの帽子の子…今頃殺されちゃってるかもよ?屋上に私のお店によく通ってくれてる半グレ集団を配置させて貰ってるからね」
それで俺を揺すっているつもりであろうババアは余裕がある表情で俺を見ている。
「…そいつらに幽霊の格好でもさせてんのかよ」
「何を言ってるのかしら?そんな訳ないでしょう」
「そうか。そのまま心霊テイストにしとけば、俺には無理でもアイツには勝てたかもしんねぇのに」
「さっきから何言ってるの?あんな腑抜けた坊やに何ができるって言うの?」
「…一応あれでも"最初の従業員"なんでな」
ババァの姿に寒気を感じつつ俺は剣を構えた。
先程までのか弱い雰囲気は消え去り妖艶な笑みを浮かべた女は俺から距離をとって人差し指を唇に当てた。
「初めからだ。普通…こんな汚ねぇところにアンタみたいな女が1人で来ないだろうからな。勉強不足だったな」
クロムは初めから疑っていた。いくら後輩の為だからと女がボーイも連れずに1人でここまで来ていたところから。それも怪しい噂が流れている先輩が絡んでいるのにも関わらずに1人で来ていた事に疑問を覚えていた。
「あらそれは偏見かしら?女はそこまで弱くないわよ」
「それだけじゃない。アンタ捕まってた割に手足にロープの跡がついてなかったからな。すぐに捕まったにしろだいぶきつく拘束されてたのにも関わらずな」
先程稀琉がロープを解いた時。硬く結ばれていたのを横目で見ていた。あれだけきつく結ばれていれば女性の細腕に跡をつけるには充分すぎる程の筈だったが彼女にはそれがなかった。
「わざわざ手を摩ったのに…目敏い子ね。君達外でこっちの様子伺ってたでしょう?その時に本当に助けるフリでもすれば良かったわ」
「…嘘つくなよ。アンタ助けるフリしてただろ。俺が来る前にさっきの連れがアンタの姿を見たって言ってたぞ」
「いいえ?行ってないわよ。あんな汚い所に入らなきゃならないのにそんな暇ないもの」
「…?」
俺は女の回答に疑問を抱いた。…稀琉の奴さっきこいつを見たとか言ってなかったか?女の様子から嘘をついている様には見えない。チラッと窓辺の方に目を向け、目を細める。……あぁ。なるほど。そう言う事か。謎が解けた俺は再び女に視線を戻した。
「どうしてそれに気付いたのかしら?見えないように透明のケブラー糸を使ってたのに」
腕輪を指差しながら女は笑った。ケブラー糸は防弾チョッキ等にも使用される頑丈な糸だ。それを使えば稀琉の体を引っ張る事は可能であった。
「さっきあの馬鹿が連れてかれた時に光ってんのが見えたからな。その前にわざとらしく稀琉に触ってたのも、俺にわざと寄りかかったのも仕掛ける為だろ。動きも糸を引くような指の動きしてたからな。詰めが甘いんだよ」
「そう…本当に目敏い子ね。でも現実的じゃないんじゃない?私が気付かれないように糸をつけるのも、引くような動きをしてたって言っても私は女よ?いくらあの子が太ってなくても手だけでは引っ張れないわよ」
確かにいくらケブラー糸を使用していたとはいえ彼女の腕は細く、それなりに体重のある稀琉をさっきのように引き摺り屋上まで上げる事は不可能に近かった。
…そう。人間であればだが。
「…言ったろ?"勉強不足"だって。…アンタ人間じゃねぇんだろ」
「!」
「…ケブラー糸は囮だろ。その糸とアンタから出てる糸…光り方が若干違うんだよ。1人で来た事や動き、雰囲気…人間の真似してるつもりだろうが、演じきれてねぇんだよ。生憎俺の側にも"人間のフリ"してる奴がいるんでな。嘘ついてる動きかどうか見りゃ分かるんだよ。アンタ麗弥を連れ去った女だろ?そろそろ正体を現したらどうだ?丁度アンタがあの怖がりを連れ出してくれたからな。こっちとしても好都合だ」
挑発するように問いかけると女はニヤリと笑ってピアスを外した。ピアスが音を立てて床に落ちると明らかに人間ではない気配がその場を包み込み、先程の甘い香りが強くなった。
「単刀直入に聞く。…あの眼帯の馬鹿は何処だ?さっさと答えねぇと…楽に殺してやらねぇぞ」
剣を抜いて女に突きつけると更に女は卑しい笑みを浮かべた。
「そこまでバレてるなんて…。それにこの私を脅すなんて恐ろしい坊やね。そうよ。私は"蜘蛛"よ。だからさっきの帽子の坊や位簡単に運べるわ」
手の平から糸を出し、背中から蜘蛛の足を出した女の口から牙が見えた。その瞬間、俺の背中には寒気が走る。
「…ゲッ…蜘蛛かよ…。糸出してるからもしかしてとは思ったが…。気持ち悪りぃ」
「あら。蜘蛛を馬鹿にすると痛い目に遭うわよ」
カサカサカサ…。
女が足を動かす度に気色の悪い耳障りな音がする。その音が耳に届く度に全身に鳥肌が立つのがよく分かった。
「その足しまってくんねぇか。見てるだけで気持ち悪い。クソッ…こうなるんなら稀琉の代わりに俺が屋上行けば良かった。虫ケラの相手なんて鳥肌が立つ」
「ウフフ…口が減らない坊やね。貴方みたいなきれーな子は美味しいから食べちゃいたいけど…ダメね。ヤナ様に連れてくるように言われているから。代わりにさっきの帽子の坊やを食べる事にするわ」
「…ヤナ様?黒眼鏡の事か?」
女の口から別の名前が出た。やはりこの女は黒眼鏡の部下だったようだ。
「そうよ。あぁ、そしたら今捕まえてる眼帯の子も食べてしまいましょう。あの子も美味しそうだしね」
カサカサカサカサ…
足の動く音に鳥肌が更にたった。ある意味早く終わらせねぇともたねぇ。
「…気持ちわりぃんだよ、虫ケラババア。先にその不愉快な足を切り落とさせて貰う」
「バッ!…本当生意気な坊やね!そもそもこんなのんびり私の相手してていいのかしら?あの帽子の子…今頃殺されちゃってるかもよ?屋上に私のお店によく通ってくれてる半グレ集団を配置させて貰ってるからね」
それで俺を揺すっているつもりであろうババアは余裕がある表情で俺を見ている。
「…そいつらに幽霊の格好でもさせてんのかよ」
「何を言ってるのかしら?そんな訳ないでしょう」
「そうか。そのまま心霊テイストにしとけば、俺には無理でもアイツには勝てたかもしんねぇのに」
「さっきから何言ってるの?あんな腑抜けた坊やに何ができるって言うの?」
「…一応あれでも"最初の従業員"なんでな」
ババァの姿に寒気を感じつつ俺は剣を構えた。