Devil†Story
先ほどよりも目を細めたロスと目が合う。
…こないだのトランス状態の事か?原因は定かではないが…色々と初めての事が多かったのもあるだろう。あの時は今までで1番の大怪我であった。それだけではなくそれなりの“強者”と対峙したのは、ロスと契約してからはなかった。命と命のやり取りを直で感じたのも…あれだけ血を求めたのも。興奮する事なんて久しくなかった俺があれほどの高揚感を感じたのも、命を刈り取る事に強い快感を覚えたのも…全て初めての事だった。
だからと言って記憶がない訳でも、自分の意識がなかった訳でもない。確かに少し離れたところで自分を操っていた感じは否めないが…全て俺の意志で行動していた。元々ロスと契約した後…“あの時”以来、俺の中の残虐性や攻撃性は強くなった。それが今回更に強くなったのか。もし仮にそうであれば、そうなった原因は命が脅かされた事に加えて、こいつがそれなりに力のある悪魔で、その強い悪魔と契約したからだろうか。…いずれにしても答えは分からない。今はなんて事ないし、そうだったとすればこいつに分からない訳がないだろう。
自分でもよく分からない事を言う必要はない。
「……ねぇよ。こないだ話した事で全てだ」
「……そうか?それにしては…随分お楽しみだったみたいだが」
ロスが左手の甲を俺に見せてくる。普段は見えないが、ロスの左手のは俺と契約した時に現れた血印がある。鈍くロスの血印が光るとそれに反応して俺の右手の甲にも血印が現れる。先日、話をした時にも同じような話をしていた。ロスが魔界に居た時に鈍痛が走ったらしい。それは俺があの状態になった時かは定かではないが、時間的に同じくらいであった事は想像できる。基本的に俺からロスの方に力がいく事はない。相手は格上の存在だ。当たり前の事だろう。しかし、鈍痛がしたという事は俺から何らかの力がロスの方へ流れ出たと言う事だった。力が増した感じはしなかった。ただ…自身の望みが外へ漏れ出ただけだ。…俺をそうさせたのはこいつの筈なんだがな。なんにせよ…この事は言うつもりはない。よく分からないことはもちろんだが…負けかけてそうなったという事実が知られれば、こいつの事だ。何を言われるか分かったもんじゃない。
「…命のやりとりなんて久々だったからな。お前と契約して…初めての経験だった。魔物と戦うのもな。普段は“人間”のフリしてる俺があれだけの敵に出会えるのはそうそうない事だろ。人間の命は容易く奪えるからな。…自分の命が脅かされるような強敵と戦って…楽しくなって何か悪いか?」
これも嘘ではない。あの時…俺は楽しかった。溢れ出す血を見て高揚感を感じていた。そんな感情を覚えたのは本当に久々だった。
「……」
左手を降ろし、更に目を細めたロスはジッと俺を見ている。相変わらず何を考えているのか分からない紅黒い闇に覆われた目で。
「…なんだよ。俺にそうなれって教えたのはお前だろ」
「……そうだな。何もないなら別にいい」
細めた目を戻したロスを見て詮索が終わった事を悟った。今後、あの状態になった時はきっとロスもそこにいるだろう。自分の目で見てそれで何か疑問があったら言ってくるだろうから、その時に対応すれば良い事だ。あのクソ眼鏡…純血の吸血鬼とは今後も戦う事になるだろうしなーー。
純血の吸血鬼というワードで俺は忘れていた事があったのを思い出した。
「…ロス」
「なんーーいって!?」
返事をしていたロスの頭を右手で殴りつけた。そのせいでマットレスに激突したロスはすぐに戻って俺に文句を言った。
「いきなり何すんだよ!いってえな!」
「てめぇ…俺に純血の吸血鬼の話ししなかったな?お陰であのクソ眼鏡のよだれをつけられただけじゃなくて、あの野郎の毒液注入されただろうが!気持ち悪くて暫く大変だったんだ!」
首を指差して俺は文句を言い返した。あの時は怪我や特殊メイクを頼んでいて忘れていたが…そうだった。こいつが俺に正確な情報を与えなかったせいであんな目に遭った。暫くはその部分を血が出るくらい洗わないと気持ち悪くてダメだったんだ。その分、殴ったってバチは当たんねえだろ。
「それは悪かったって!まさか絶滅危惧種並にに珍しい純血の吸血鬼がピンポイントで来るとは思ってなかったんだよ!だがお前が油断して噛まれなきゃ問題なかっただろ!」
「油断のクソもあるか!血は食事って言ってただろ!まさか血を飲んで力が増すなんて思ってなかったんだっての!大体あの眼鏡は熊どころじゃなかったしな。ナイフ投げただけで壁がへこむなんて銃弾と変わんねぇだろうが!」
「大差ねぇだろ!熊も銃も!人間なら喰らえば一撃で致命傷だろうが!」
「うるせぇ!今後はきちんと忘れずに話していきやがれ!」
「へーへーすみませんね!…ってアレ?そういやそいつどっかの組織に属してたんだよな?」
突然思い出したかのように怒りを収めたロスが問いかけてくる。
「そうだが…それがどうした」
「純血だけじゃねぇけど基本、吸血鬼は多種族と群れる事はないんだ」
「他の奴等の事は詳しくは言ってなかったが…そいつの手下が蜘蛛女……ウッ…だったな」
唾液や体液が注入された事に加えて、あの蜘蛛女の足が頭に過って思わずえずきそうになる。
…クソ。気持ち悪い事ばっか思い出させんな。
「ーー?どした?」
一瞬えずいていた俺にロスが不思議そうに聞いてきやがった。
…やめろっての。蒸し返すんじゃ……むし……クソ!兎に角思い出させんな。吐くっての。
「なんでもねぇ……で?群れねぇのがどうした?」
気持ち悪さを抑えながら聞き返す。ロスは俺の顔色を見てようやく察したのか続きを話し始める。
「そうそう。特に純血の奴はプライドが高い奴が多いから基本的に他種族の言う事は聞かねぇんだよ。それが組織に所属してんのが疑問でな」
「確かにプライドは高そうだったな。だがあいつがリーダーって感じじゃなかったぞ。その組織に居ると狩りが出来ねぇってほざいてやがったし。眼鏡は紅い目の奴をとりあえず連れて来いって言われてたみたいだからな。…俺と言うよりは多分お前だと思うが」
「んー…俺も基本魔族とは絡まねぇからなー…一体なんの用があるんだか」
そのままの体制で考え込み始めた。
…我慢してたが、いい加減ちけぇっての。顔だけじゃなくて体も。どいつもこいつも距離感が分からねえ奴ばっかりだな。
「…考え事すんなら離れてくんね?距離が近いんだよ」
「は?なん……あ!悪い悪い!」
俺の顔を見て何故か一瞬何か言いかけ、不思議そうな顔をしたロスが離れた。
「ったく…どいつもこいつも俺のパーソナルエリアを無視しやがって」
「…お前女みたいだから寄られるんじゃねえのー?」
「殺すぞ」
「こわーい」
「……寝る」
わざとらしく怖がったロスにイライラしつつ、俺はベットの横に置いていたコートを投げつけた。
「おっと…おい。急に投げんなっての」
「うるせえ。俺は寝る」
「寝る前にかけろっての…つーかまだ18時だけど〜?」
「疲れたから仮眠とるんだよ。0時まで起きなかったら起こせ。シャワー浴びるから」
「太々しく頼み事してくる奴だな〜。コートはかけねえし。シャワー諦めれば良いのに」
「ねみいからダル絡みしてくんな」
「ハイハイ。どうぞごゆっくり」
諦めてコートをクローゼットに掛けたロスが盛大に溜め息をついていた。窓側を向いて布団を鼻まで掛ける。
…確かこの傷…全治3週間だっけか。すぐに治る今の体になってからの方が長いから普通の感覚を忘れてるが…めんどくせぇ…。今日で5日くらいか。この生活が始まって。て事は後2週間強もこの生活をしなきゃなんねえとかマジで怠いな…。
溜め息をついてから目を瞑る。意識はハッキリしてた筈だったが、本当に疲れていたのか、すぐに寝息が聞こえてきた。
「………」
クロムが寝たのを確認したロスは再びベッド横に立つ。鼻まで布団をかぶって寝ているクロムの顔を見てボソッと呟いた。
「…一瞬間違えてたよ。危ねー……俺も長く存在し過ぎたからかね」
いつもの仏頂面とは違い、寝ている時は穏やかな顔をしているクロムを見て溜め息をついた。
「気をつけねえとな。……なーんか隠し事してるっぽいし。俺に隠し事なんて100万年早いっての。…まぁお前が言う気になるまでは、危険がない限りは黙ってるけどさ」
そう言い残してロスは部屋から出て行った。その後、約束通り0時まで起きなかったクロムを起こした。大変不機嫌ではあったが、シャワーを浴びたクロムはすぐにベットに戻って本格的に寝始めた。
そこまで見届けたロスは明日も仕事かー…と思いながら本格的に寝たクロムを部屋に残し、いつものように散歩に出掛けた。
…こないだのトランス状態の事か?原因は定かではないが…色々と初めての事が多かったのもあるだろう。あの時は今までで1番の大怪我であった。それだけではなくそれなりの“強者”と対峙したのは、ロスと契約してからはなかった。命と命のやり取りを直で感じたのも…あれだけ血を求めたのも。興奮する事なんて久しくなかった俺があれほどの高揚感を感じたのも、命を刈り取る事に強い快感を覚えたのも…全て初めての事だった。
だからと言って記憶がない訳でも、自分の意識がなかった訳でもない。確かに少し離れたところで自分を操っていた感じは否めないが…全て俺の意志で行動していた。元々ロスと契約した後…“あの時”以来、俺の中の残虐性や攻撃性は強くなった。それが今回更に強くなったのか。もし仮にそうであれば、そうなった原因は命が脅かされた事に加えて、こいつがそれなりに力のある悪魔で、その強い悪魔と契約したからだろうか。…いずれにしても答えは分からない。今はなんて事ないし、そうだったとすればこいつに分からない訳がないだろう。
自分でもよく分からない事を言う必要はない。
「……ねぇよ。こないだ話した事で全てだ」
「……そうか?それにしては…随分お楽しみだったみたいだが」
ロスが左手の甲を俺に見せてくる。普段は見えないが、ロスの左手のは俺と契約した時に現れた血印がある。鈍くロスの血印が光るとそれに反応して俺の右手の甲にも血印が現れる。先日、話をした時にも同じような話をしていた。ロスが魔界に居た時に鈍痛が走ったらしい。それは俺があの状態になった時かは定かではないが、時間的に同じくらいであった事は想像できる。基本的に俺からロスの方に力がいく事はない。相手は格上の存在だ。当たり前の事だろう。しかし、鈍痛がしたという事は俺から何らかの力がロスの方へ流れ出たと言う事だった。力が増した感じはしなかった。ただ…自身の望みが外へ漏れ出ただけだ。…俺をそうさせたのはこいつの筈なんだがな。なんにせよ…この事は言うつもりはない。よく分からないことはもちろんだが…負けかけてそうなったという事実が知られれば、こいつの事だ。何を言われるか分かったもんじゃない。
「…命のやりとりなんて久々だったからな。お前と契約して…初めての経験だった。魔物と戦うのもな。普段は“人間”のフリしてる俺があれだけの敵に出会えるのはそうそうない事だろ。人間の命は容易く奪えるからな。…自分の命が脅かされるような強敵と戦って…楽しくなって何か悪いか?」
これも嘘ではない。あの時…俺は楽しかった。溢れ出す血を見て高揚感を感じていた。そんな感情を覚えたのは本当に久々だった。
「……」
左手を降ろし、更に目を細めたロスはジッと俺を見ている。相変わらず何を考えているのか分からない紅黒い闇に覆われた目で。
「…なんだよ。俺にそうなれって教えたのはお前だろ」
「……そうだな。何もないなら別にいい」
細めた目を戻したロスを見て詮索が終わった事を悟った。今後、あの状態になった時はきっとロスもそこにいるだろう。自分の目で見てそれで何か疑問があったら言ってくるだろうから、その時に対応すれば良い事だ。あのクソ眼鏡…純血の吸血鬼とは今後も戦う事になるだろうしなーー。
純血の吸血鬼というワードで俺は忘れていた事があったのを思い出した。
「…ロス」
「なんーーいって!?」
返事をしていたロスの頭を右手で殴りつけた。そのせいでマットレスに激突したロスはすぐに戻って俺に文句を言った。
「いきなり何すんだよ!いってえな!」
「てめぇ…俺に純血の吸血鬼の話ししなかったな?お陰であのクソ眼鏡のよだれをつけられただけじゃなくて、あの野郎の毒液注入されただろうが!気持ち悪くて暫く大変だったんだ!」
首を指差して俺は文句を言い返した。あの時は怪我や特殊メイクを頼んでいて忘れていたが…そうだった。こいつが俺に正確な情報を与えなかったせいであんな目に遭った。暫くはその部分を血が出るくらい洗わないと気持ち悪くてダメだったんだ。その分、殴ったってバチは当たんねえだろ。
「それは悪かったって!まさか絶滅危惧種並にに珍しい純血の吸血鬼がピンポイントで来るとは思ってなかったんだよ!だがお前が油断して噛まれなきゃ問題なかっただろ!」
「油断のクソもあるか!血は食事って言ってただろ!まさか血を飲んで力が増すなんて思ってなかったんだっての!大体あの眼鏡は熊どころじゃなかったしな。ナイフ投げただけで壁がへこむなんて銃弾と変わんねぇだろうが!」
「大差ねぇだろ!熊も銃も!人間なら喰らえば一撃で致命傷だろうが!」
「うるせぇ!今後はきちんと忘れずに話していきやがれ!」
「へーへーすみませんね!…ってアレ?そういやそいつどっかの組織に属してたんだよな?」
突然思い出したかのように怒りを収めたロスが問いかけてくる。
「そうだが…それがどうした」
「純血だけじゃねぇけど基本、吸血鬼は多種族と群れる事はないんだ」
「他の奴等の事は詳しくは言ってなかったが…そいつの手下が蜘蛛女……ウッ…だったな」
唾液や体液が注入された事に加えて、あの蜘蛛女の足が頭に過って思わずえずきそうになる。
…クソ。気持ち悪い事ばっか思い出させんな。
「ーー?どした?」
一瞬えずいていた俺にロスが不思議そうに聞いてきやがった。
…やめろっての。蒸し返すんじゃ……むし……クソ!兎に角思い出させんな。吐くっての。
「なんでもねぇ……で?群れねぇのがどうした?」
気持ち悪さを抑えながら聞き返す。ロスは俺の顔色を見てようやく察したのか続きを話し始める。
「そうそう。特に純血の奴はプライドが高い奴が多いから基本的に他種族の言う事は聞かねぇんだよ。それが組織に所属してんのが疑問でな」
「確かにプライドは高そうだったな。だがあいつがリーダーって感じじゃなかったぞ。その組織に居ると狩りが出来ねぇってほざいてやがったし。眼鏡は紅い目の奴をとりあえず連れて来いって言われてたみたいだからな。…俺と言うよりは多分お前だと思うが」
「んー…俺も基本魔族とは絡まねぇからなー…一体なんの用があるんだか」
そのままの体制で考え込み始めた。
…我慢してたが、いい加減ちけぇっての。顔だけじゃなくて体も。どいつもこいつも距離感が分からねえ奴ばっかりだな。
「…考え事すんなら離れてくんね?距離が近いんだよ」
「は?なん……あ!悪い悪い!」
俺の顔を見て何故か一瞬何か言いかけ、不思議そうな顔をしたロスが離れた。
「ったく…どいつもこいつも俺のパーソナルエリアを無視しやがって」
「…お前女みたいだから寄られるんじゃねえのー?」
「殺すぞ」
「こわーい」
「……寝る」
わざとらしく怖がったロスにイライラしつつ、俺はベットの横に置いていたコートを投げつけた。
「おっと…おい。急に投げんなっての」
「うるせえ。俺は寝る」
「寝る前にかけろっての…つーかまだ18時だけど〜?」
「疲れたから仮眠とるんだよ。0時まで起きなかったら起こせ。シャワー浴びるから」
「太々しく頼み事してくる奴だな〜。コートはかけねえし。シャワー諦めれば良いのに」
「ねみいからダル絡みしてくんな」
「ハイハイ。どうぞごゆっくり」
諦めてコートをクローゼットに掛けたロスが盛大に溜め息をついていた。窓側を向いて布団を鼻まで掛ける。
…確かこの傷…全治3週間だっけか。すぐに治る今の体になってからの方が長いから普通の感覚を忘れてるが…めんどくせぇ…。今日で5日くらいか。この生活が始まって。て事は後2週間強もこの生活をしなきゃなんねえとかマジで怠いな…。
溜め息をついてから目を瞑る。意識はハッキリしてた筈だったが、本当に疲れていたのか、すぐに寝息が聞こえてきた。
「………」
クロムが寝たのを確認したロスは再びベッド横に立つ。鼻まで布団をかぶって寝ているクロムの顔を見てボソッと呟いた。
「…一瞬間違えてたよ。危ねー……俺も長く存在し過ぎたからかね」
いつもの仏頂面とは違い、寝ている時は穏やかな顔をしているクロムを見て溜め息をついた。
「気をつけねえとな。……なーんか隠し事してるっぽいし。俺に隠し事なんて100万年早いっての。…まぁお前が言う気になるまでは、危険がない限りは黙ってるけどさ」
そう言い残してロスは部屋から出て行った。その後、約束通り0時まで起きなかったクロムを起こした。大変不機嫌ではあったが、シャワーを浴びたクロムはすぐにベットに戻って本格的に寝始めた。
そこまで見届けたロスは明日も仕事かー…と思いながら本格的に寝たクロムを部屋に残し、いつものように散歩に出掛けた。