Devil†Story
輝太が一方的に約束してから、あっという間に4日の時間が流れた。その間は輝太が宿題をしなければならなかったようで、一度も約束について訂正することも出来ずにそのままになっていた。先日よりも淡いピンクが公園内を覆うように広がっている。桜祭りも間近であろう。


「おーい!お兄ちゃん達ー!」


桜の花弁が舞う木々の間から、輝太は駆けてきた。稀琉は普段のように笑顔で手を振り、クロムは本を読んでいる。ここに通い始めた頃には数ページしか進んでいなかった本は残り僅かの所まで来ていた。この調子だと今日中には読み終えるだろう。


「久しぶりだね!宿題は終わったの?」


「うん!何とか終わったよ!」


「それなら良かった!頑張ったね」


「えへへ。クロムお兄ちゃんもこんにちは!」


輝太がいつものようにベンチに座っているクロムの膝に飛び付いた。輝太の行動は予想できていたので本を上に上げ、ぶつからないようにする。


「あぁ」


輝太の挨拶に対し、短く返事をする。これも見慣れた光景だ。輝太は気にする様子もなく満遍の笑みを浮かべる。


「今日は何して遊ぶ?2人で鬼ごっこする?」


クロムが遊びに入らないのも慣れている。いつものように輝太が遊びを提案すると、稀琉はニコニコと笑った。


「フフッ。それもいいけど実は今日はね…オレ達だけじゃないんだ」


「え?どういうこと?」


何かを隠している様に笑う稀琉の方を見た瞬間、頭の上にポンと手が置かれた。クロムの手かと思ったが、クロムの手にしては少し大きい気がした。


「相変わらず元気だな〜」


「!」


その声で誰か分かった輝太は勢いよく振り向いた。


「ーーロスお兄ちゃん!」


そこにいたのはベンチに肘をついて居たロスであった。頭の上に手を置いていたロスは微笑するとその手を上げた。


「お〜。久しぶりだなー」


クロムの膝から離れた輝太は膝立ちでベンチに登ると、ベンチ越しにロスに抱きついた。


「久しぶり!元気だった?」


「この通り元気だぞ〜」


嬉しさのあまり勢いよく飛びつき、今にも落ちそうな輝太を軽々しく支えながら答える。その姿を見て「犬みたいだなぁ」と感じていた。輝太の頬がロスの首に当たっていた。ロスの肌に触れた輝太が顔を離す。


「もしかしてロスお兄ちゃん寒い?」


「うんにゃ〜?なんでだ?」


「ロスお兄ちゃんも、クロムお兄ちゃんと一緒で冷たいから」


そう言って首を指差した。悪魔は元々体温が低く、ないに等しかった。悪魔の中には暖かさを求めて他者の命を奪うモノも居るくらいだ。それでも今のように正体を隠す事も多いので、ある程度は調整出来るのだが、どうしても冷たくなってしまう。


「確かにロスとクロムっていつも手が冷たい気がする!」


同意するように稀琉も答える。そのやりとりは慣れているのでロスは手をひらひらさせながら飄々と答えた。


「そうなんだよー。クロムは知らねぇけど、俺はすげぇ冷え性なんだよな〜」


「そうなんだね!クロムも冷え性なの?」


「そうだな」


紙に記されている文字から目を離す事なく、即答する。クロムに至っては嘘ではなく、本当の事だからだ。ロスから「よくそんな冷えてて、あれだけ速く動けるもんだ。悪魔じゃねぇのに」と感心される程、重度の冷え性であった。


「確かに初めて会った時も冷たかった気がするけどーーあっ!そういえばあの時はありがとう!」


思い立った事を深く考えずに言葉にしているのだろう。ころころち話題が変わる。それでもロスは気にせず、流れに身を任せ、思い返していた。ロスと輝太が会ったのはあの夜以来だ。助けてもらった時のお礼を言うと「いいえ〜」と返した。


「今日はロスお兄ちゃんも来てくれて嬉しいなぁ!」


「俺だけじゃないぞ〜」


そう言った瞬間、また後ろから別の声がした。


「さぁ、誰でしょーか?」


「!」


その声に「麗弥お兄ちゃん!」と言いながら、勢い良く振り向くと今度はそこには輝太の言う通り麗弥が立っていた。


「よっ!元気そうやんな」


「うん!麗弥お兄ちゃんこそ!元気だったんだね!」


ロスから離れた輝太は次は麗弥に飛び付いた。麗弥は手を広げて受け止めるとそのまま抱き上げた。


「おぅ!元気やで〜!」


「稀琉お兄ちゃんから大丈夫って聞いていたけど、会えてなかったから心配していたんだ!」


「せやったな。あん時はおおきにな〜。お陰で助かったわ〜」


麗弥と輝太が最後に会ったのは、麗弥がヤナに拉致された時であった。輝太がその現場を見て、クロム達に会えなければ発見までに時間を要し、命がなかったかもしれない。その礼をしていた。礼を言われた輝太は嬉しそうに笑った。


「いいえ!あの人はなんだったの?」


「あ〜。あいつはなぁ、ちょっと喧嘩してた昔の知り合いやねん。冗談で叩いたらしんやけど強過ぎやっちゅーねん」


本当のことを言うわけにはいかないので嘘を交えつつ、「なぁ?」と近くにいたロスに同意を求めた。抱き上げていた輝太を下ろして同意を求める麗弥に対して、ロスは少し考えた後に口角を上げた。


「そうね〜。まさかの結末に驚いたよ。…あんま人に恨まれる様なことはしちゃいけないな?」


息を吐く様に麗弥に合わせるロスに対し、クロムは「……悪魔のてめぇが言うことかよ」と内心思いつつ、ページを捲る。ロスはニヤニヤと少し意地の悪い笑みを浮かべ、麗弥を見た。どんな反応をするか試しているのだ。


「アハハ……」

ロスの様子に苦笑いを、それを悟られないように麗弥は頭を掻いた。焦っている麗弥を見てロスは鼻歌を歌っていた。


「そうだったんだ!僕、びっくりしちゃったよ!」


そんな2人の様子に気付いていない輝太は無垢な笑みを浮かべていた。


「心配かけてごめんなぁ。ほんまに人に恨まれるような事はせんでおいた方がええな。輝太も喧嘩すんのはええけどきちんと解決するんやで」


「うん!それより今日はなんで2人も来てくれたの!?」


嬉しそうに普段は居ない、ロスと麗弥が居るのかを問いかけた。
何故2人が居るか。それは意外にも刹那から「4人で会っておいで」と言われたからだ。その後に「クロムは最後になるだろうから」という言葉が続いた。現段階でクロムの怪我もほぼ完治していた(稀琉と麗弥の前で刹那に診て貰い、納得させた)それが何を意味するか。療養が終わり、今日でここに来るのが最後であることを意味していた。明日以降はクロムがここに来る事はなくなる。それを見越していたのも理由の1つとなっていた。


「今日はバイトが早く終わったから、俺とロスも会いに来たんやで〜」


クロムが最後になるということは、輝太以外の3人は知っていた。だが当の本人は普段通り読書をしている。本人が言うつもりがないことを勝手に言う訳にはいかないので、当たり障りのない回答を口にした。
< 184 / 543 >

この作品をシェア

pagetop