Devil†Story
更に数時間後。


刹「ふー……」


刹那は談話室で深呼吸をしていた。色々な事があったとはいえ…無事に生きて全員が帰ってきた事に安堵していた。


刹「………」


何よりもクロムが麗弥を助ける様な行動をしていた事に安心感があった。…うーん。色々心配だったけど…裏切った麗弥を助けてくれたしその後は落ち着いている感じだったから良かった。


刹「俺の早とちりだったかな」


笑いながら言った刹那の呟きを聞いていたのは部屋にある物だけ…のはずだった。


「……随分嬉しそうだなぁ?刹那」


刹「!」


突然の声に思わず椅子から落ちそうになる程驚き、声のする方へ振り返る。


刹「…ロス!」


そこに居たのはロスであった。窓際に座ってこちらを見ているであろうロスの表情はカーテンの影に隠れて分からなかった。


刹「ビックリした〜…頼むから急に出てこないでよ」


いつものようにため息をつきつつ答える刹那だったが様子がおかしいことにすぐ気付いた。いつもなら「…ふふふ。刹那もまだまだだなぁ」と笑って言ってくるがそうではなかったからだ。


何処となく…近寄りがたい雰囲気を出しているのが感じ取れた。


刹「?どうかした?そう言えばなんか用事だった?」


何故だか言葉を紡いでないと不安になる感覚に陥った刹那が問いかける。


ロ「…そうだなぁ。……ちょっと言っておきたいことあってね」


窓際から降りたロスはゆっくりと机に近付きながら顔を上の方に向けながら答える。
…その靴音がやけに大きく聞こえるのは気のせいだろうか?なんとも言えない不安が刹那にまとわりつく。


刹「言っておきたい事…?」


恐る恐る聞き返す刹那の言葉にピタリと机の前で止まるロス。少しの沈黙の後ゆっくりと口を開いた。

ロ「そう。ーー…俺言わなかったっけ?"邪魔すると殺すよ?"…って」


刹「!?」


反射的に体がビクリと小さく跳ね上がった。反射的ににした瞬きの0.1秒という僅かな間にロスの姿は消えていた。


刹「…えーーッ…!」


驚いたのも束の間首に息苦しさを感じた。理由は簡単だ。消えたはずのロスが後ろから首に手を掛けてきたからだ。そこそこ力が込められ逃れようと焦る刹那を嘲笑うように絞めている手を緩めない。


刹「なっ…なんのこと?俺そんなことしてないでしょ?」


頭をフルに回転させながら刹那は出来るだけ動揺していることに気付かれないように普段のように尋ねる。


ロ「そんなことしてないでしょ?…ねぇ。本当は心当たりあるだろ?刹那…。稀琉と麗弥に探らせてたようだけど……甘いなぁ。あの2人に頼んで…俺を出し抜こうなんて」


刹「ッ…!」


耳元で囁かれる殺意のこもった声に体が硬直する。首にかけられた手に力が強くなっているのを感じた。


…まさかロスに言っちゃったのか…!確かにロスに言うなとは言ってなかったけど…よりによって1番言ってはいけない人物に…!


そんな刹那の思考を読むようにロスはそのまま言葉を続けた。


ロ「…相手は悪魔(俺)だぞ…?俺にバレずに詮索させるなんて……出来ると思った?それに…この行為自体が邪魔をしてるに入るって…聡明な刹那なら分かってたんじゃないのか?なぁ…?」


相当怒っているらしいロスは徐々に力を込めるのを止めなかった。長い爪が首に食い込んで血が流れ出してきた。


どうする…?どうすれば……!酸素が届きにくくハッキリしない頭で必死に逃れる方法を考える。


この状態のロスは…一度だけ経験していた。それは初めて出会った時だ。その時はクロムに救われて助かったが…ある意味"ストッパー"であるクロムは今ここにはいない。


何よりこの殺気の中で逃げようともがくこと事態が危険であることを本能が告げていた。焦る刹那をよそにロスはまた少し耳元に近付いて低い声で囁いた。


ロ「……俺が本気になればいつでも全て壊せるんだからな?」


刹「ッ……!!」


更に首を絞められ思考が鈍る刹那の頭だったが、その言葉の意味はハッキリと理解する事ができた。全ての中に自分やカフェだけではなく稀琉と麗弥が含まれている事に気付くのにそう時間はかからなかった。


ふと下を見ると影に羽が映り込んでいる。掴まれている首から寒気がする程の殺気が流れ込んできて、反射的に体が小刻みに震え何も言えなくなった。


ロ「………」


少しの間そうしていたロスだったが不意に刹那から離れて扉の方は歩いて行った。乱れる息を必死で整えつつロスを見るともう人間の姿に戻っていた。


ロ「……なーんてな。冗談だよ、冗談。ごめんな。やり過ぎちゃった〜」


指先についていた血を舐めながらそう言うロスはいつもと同じロスであった。手の震えを感じながら刹那はロスを見つめた。相変わらず読めない表情で笑うと指をパチンと鳴らしてきた。


刹「…!」


首から感じていた鋭い痛みが消えて首元にあるであろう傷に触れるとそこには何も無くなっていた。どうやらロスが治してくれたらしい。


再びロスを見るも先程と同じ表情で真意は掴めそうになかった。戸惑う刹那を見てロスは手をひらひらとさせて話し始めた。


ロ「教えておけば良かったな。クロムがいつもよりおいたしてたのは理由があってね〜。輝太の件でうまーく契約を出来てなかったから血印が安定しなくて俺が指示してたんだよ。それでやってたことだからもう大丈夫だよ〜。…刹那が心配してる"契約違反"もしないから安心してよ」


ケラケラ笑いながらロスはいつものように軽く答えた。危険が去った事に安堵して思わず大きく息を吸って吐いた。しかし後ろを向いていたロスがくるりと顔だけこちらに向けて発した言葉で再度体が硬直した。



ロ「……今度クロムの事で気になるような事があったら探らせるような真似しないで俺に聞いてね?……な?」


ーーゾクッ


再び向けられた殺気に背筋が凍りつくような寒気が通り抜けていった。話そうとすると口が震えてうまく言えそうになく刹那は頷く事で意思表示を行った。それを見て満足げに頷いたロスは扉に向かって行った。


ロ「…あっそうだ」


刹「…?」


ドアノブに手を掛けながらこちらを向くロスに身構えてしまう。そんな刹那をロスは面白そうに見ている。やはり正真正銘の悪魔なのだろう。怯える姿を見るのが楽しいようだ。


ロ「今度さクロムが持ってる携帯の電波を弱いにしてよ。テストとか協力するからさ〜。…こないだみたいにならないようにしたいから」


刹「…!」


こないだの言葉の中にはクロムが書斎に行くことを示唆しているのだろう。電波が弱くなればロスは近くにいても平気だから面倒くさがり屋のクロムは部屋で本を読むことが増える。その言葉の意味を理解した刹那は再び首を縦に振った。


ロ「流石話が早くて助かるよ。…ありがと♪よろしくな。んじゃおやすみ〜」


手をひらひらとさせながらロスは明るい声を出して部屋から出て行った。沈黙が部屋の中を支配する。


刹「……やっぱり…悪魔だけのことはある………クロムがおかしかった原因は分かったんだ…。もう大丈夫ならこれ以上の詮索はやめておこう……理由も今度は教えてくれるみたいだし………」


"触らぬ神に祟りなし"


そのことを肝に銘じる。自分が相手にしているスタッフ達は人間だけではないのだ。どんな者も利用してやろうと思ってたけど…軽率な行動は控えないと危険だ…。冷や汗が絶えない額を抑えながら刹那は落ち着こうと紅茶に手を伸ばした。
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