Devil†Story
―稀琉 SIDE―

誰も居ない廊下を1人で歩く。

「………」

ギュッと肩を掴む。

その表情はいつもと違い、悲しそうだ。

あぁ…石川さん、変な顔をしてたな…。

怪我……仕方がないとはいえ……気を付けてれば良かった…。

こんなんじゃなかったら………。

考え事をしながら、オレが角を曲がった時だった。

――ドンッ

「わっ!」

「!」

オレは何かとぶつかって尻餅を着いた。

「いたたた……」

「…稀琉?」

「! クロム?」

ぶつかったのは、クロムだった。

相変わらずの仏頂面だ。

「稀琉じゃん。大丈夫?」
後ろに居たロスが手を差し伸べてくれた。

「あ…うん。大丈夫」

オレは「ありがと」と言い、左手でロスの手を掴み、立ち上がる。

「あー、どーしたんー?」
その後ろから、麗弥が来た。麗弥も仕事が終わったようだ。

「あぁ、今さクロムと稀琉がここでぶつかって……って、アレ?稀琉。肩、大丈夫なのか?」

ロスが不思議そうに聞いた。

オレはそれを聞いて、ハッとなった。

しまった…!

麗「あっ、そーやん!大丈夫なん!?」

麗弥も驚いた様にオレに言う。オレは慌てて、答える。

「あっ、だ、大丈夫!ちょっ、ちょっと痛いだけだから!アハハ」

「大丈夫そうに見えないんだけど…」

「ほっ、本当に大丈夫!じゃっ、じゃあ!」

オレは逃げるようにその場を立ち去った。

「あっ!稀琉…って、行ってもうた…」

「んー。なんか、オカシイなー」

「………」

麗弥が心配し、ロスは不思議そうに呟く中、クロムは黙ったまま稀琉の後ろ姿を眺めていた。

「…ロス、行くぞ」

クロムはそう言うと、談話室の方に歩き出した。

「えっ?あ、あぁ。じゃあな、麗弥」

「あ、あぁ、うん」

ロスもそう言うと、その後に続いた。

「どした?」

「…確かめたいことがあってな」

クロムは静かにそう言った。

その目には何も映ってはない。
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