Devil†Story
稀琉は刹那がいる談話室に向かった。


今日はクロムとロスが昨日から任務に行き、麗弥も昼間に来た以来で任務に行っていた為、稀琉以外は誰も居なかった。

「おや、稀琉。暇なのかい?」

眼鏡をかけた刹那が入ってきた稀琉に問う。

「暇っていうか…ちょっと寂しくなったから来ちゃった」

そう言って稀琉は笑った。

「皆、任務だもんね」

「なんか刹那の2人きりなの懐かしいや。何年ぶりだろ」

稀琉は昔のことを思い出して、微笑する。

「本当にね。クロム達が来てから…そんなこと殆どなかったからね」

「うん。あの時は…オレ1人だったからね」

そう言う稀琉の顔は少し寂しげだった。

普段こそ、優しい雰囲気を持つ稀琉だが、実質このカフェの裏の従業員になった1人目の従業員だ。

麗弥よりも、2年も早くここで働いている誰よりもここに居る時間が長い従業員。

その分クロム達より早く裏の世界で仕事をしていて、この世界は長い。

普段の彼には似合わない…血にまみれた生活をもう10年以上しているのだ。


「そうだね…。稀琉」

「んっ?」

「今…楽しい?」

「!」

刹那の質問に初めは驚いていたが、やがて笑顔で「…うん!皆が居るから楽しいよ!」と答えた。

「そう…。なら良かった」

刹那もニコリと笑った。その時だった。

「――オーナー。お客様です」

案内役をする石川がカフェに通ずる扉を開けて入ってきた。

時刻は22時過ぎ。随分遅い客だ。

「良いよ。入れて」

「分かりました。――どうぞ」

石川に案内されて入ってきたのは…黒いローブにフードを被った金髪、青目の綺麗な不思議な雰囲気を持つ女性だった。

「いらっしゃいませ。ようこそ、Dark roomへ。俺はオーナーの刹那です」

営業スマイルを見せた刹那がそう言った。

随分綺麗な人だな…。

稀琉はそう思った。肌は白く、青い目も透き通るように美しく、絹のような金髪。

誰もが目を見張るような美しさだ。

でもなんだかちょっとクロムと似てるかも…。

稀琉は密かにそう思った。肌の色も目も…さらさらな髪も色こそ違えどクロムと雰囲気が似ていた。

こんな綺麗な人と似てるなんて感じるなんて…やっぱりクロムも綺麗な顔なんだな。

しかし、稀琉が何よりも似てると思ったのは目だ。

神秘的であるその外見を持つ彼女だが、目に光は一切感じられなかったからだ。

感情の籠っていない目が、光が籠っていない目がとても似ていた。

「しかし、こんな遅くにどんなご依頼でしょうか?」

刹那の声に稀琉は一気に現実に戻った。

「夜分遅くに申し訳ございません。わたくし、我が主に頼まれてここに来ました」

相変わらず感情の籠っていない目で、丁寧な口調で答えた。

その時、稀琉と目が合った。

「!」

なんだか、全てを見透かされている。そんな気がした。

「ほぅ…。どんなご依頼です?」

机に肘をつきながら、刹那は業務をこなす。

それにより、彼女は刹那の方を見た。

なんか…クロムに似てると思ったけど…髪の色や目のせいか、あの人の方が似てるな…。

あの人に……。

「実は…急で大変申し訳ないのですが、今すぐに駆除して欲しい人達が居るのです」

「駆除?」

「はい。主も大変困っておられます。どうかお頼みできませんでしょうか?」

駆除ということは、殺しの依頼だ。

「それは…」

刹那がチラリとオレを見る。

折角、休んでいたオレを行かせたくないのだ。

――大丈夫だよ、刹那。オレはこのカフェを守る為なら頑張れるのだから。

「――良いですよ。オレが行きます」

「稀琉」

「大丈夫。今日はゆっくり休めたし、皆も仕事してるしね」

そう笑って言うと、刹那も微笑んだ。

「分かりました。では、彼が担当の従業員です」

そう言ってオレに手を向ける。

「貴方様が…」

また青い目がオレを捉える。感情は読めないが、やはり綺麗な目だと感じた。

そして、何故だか…オレを見る彼女の目は少し違って見えた。

「お名前を…お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。今回、依頼を担当する、稀琉です。よろしくお願いします」

「キル…様…ですね。よろしくお願い致します。わたくしは…怜姫(レイキ)と申します」

怜姫と名乗った彼女はペコリと頭を下げた。

「こちらこそ」

稀琉も笑顔でそう言った。

「ところで…怜姫さん。貴女は雇われているみたいですが…その雇主の方はお見えではないのですか?」


刹那がそう聞くと、相変わらず丁寧な言葉で怜姫さんは答えた。

「申し訳ございません。主は今、別件で出られないのです」

「そうなんですね。分かりました。では、時間もないみたいですし、詳しい話は道中に稀琉が説明しますので、よろしくお願いします」

「分かりました。ありがとうございます。刹那様」

怜姫さんはずっと雇われているみたいで、誰に対しても様を付けていた。


なんだか、明らかに年下なのに申し訳ないなと思いながら稀琉は刹那に資料を貰いながら「とにかく行きましょうか」と言った。

「はい。よろしくお願い致します」

稀琉がそう言うと、怜姫も少し目を細めた。

「じゃあ、お気をつけて」
「はい。ありがとうございます」

「うん。行ってきます」


「いってらっしゃい」

――パタン

こうして稀琉は怜姫と一緒にカフェを出た。

この後に起こる出来事を想像すらせずに。

それをきっかけに悲劇が起こるなど、この時は誰も知るよしはなかった。
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