Devil†Story
―稀琉 SIDE―

「うっ……」

稀琉は地面に倒れていた。その身体には、まるで蛇のように無数の薔薇の蔓が巻き付いていた。

そのせいで、稀琉の体には薔薇の棘で傷がついていて、かなりの出血をしていた。

そして、そこに咲き誇っている薔薇の色は赤と黒だった。

「ククッ…まだだろ?まだまだ苦しくとも辛くともないだろ?」

「っ……」

「お前は“特別”だからな。…これくらいしても、死ねないだろ?」

そう男が言った瞬間、稀琉の体に薔薇の蔓が突き刺さった。

「ぐぁっ…!」

その蔓はどんどんと体の中に入っていく。

ズズッ…

「あぁ…!!」

その度に苦しそうに身を捩る稀琉を、男は嘲笑しながら見ている。

「苦しそうだな、キル。だが…こんなもので済まされないよ。…お前の“罪”の深さに比べたら…こんなものなんてことない」

「ハァ…ハァ…!ッ…」


オレは必死にあの人を見る。

「に――」

呼び掛けようとした瞬間、更に薔薇が体内を這いずった。

「あぐっ…!」

「――汚らわしいその声で俺のことを呼ぶな、キル。お前が発して良い言葉は…苦しむ声だけだ」

「うっ…あ……!」

また新しい蔓がオレのカラダに突き刺さる。

体内を薔薇の蔓が這いずる感覚が嫌という程、伝わってくる。

痛みで、その感覚で意識が飛びそうになる。

しかし、それだけでは済まなかった。

蔓が胸の辺りまで来た時、その蔓は稀琉の心臓に絡み付いた。

「あぁぁ……!」

強い痛みがオレを襲う。苦しくて呼吸ができない。

「あぁ、良いよ、キル。お前のその表情が……。苦しみで歪むその顔がその声が…それだけが…俺を満たすんだ」

口を吊り上げながらあの人は笑う。

常人なら、既に死に至っているだろうその苦痛のせいで、カラダが勝手にビクビクと痙攣する。

ふと後ろを見ると、怜姫さんが感情の読めない顔でオレを見ていた。

分かっ…てる……

オレの…存在が…罪深いことくらい……。

オレの血を吸って、どんどん紅黒くなっていく、薔薇。

罪の証を目の前で見せられているみたいだ。

分かってる…分かってるよ……!

だから………!

目を瞑り、自然と溜まっていた涙がまつ毛より先に溢れ落ちかけた時だった。

――ヒュン

「!」

スッとあの人が、そこから離れた。

そして、馴染みのある冷たい空気が、殺気が…氷のような彼がオレの前に舞い降りた。

「大丈夫か?稀琉!」

もう1人、また馴染みのある声が聞こえた。

その声で彼はオレの方を見た。その紅く冷たい目がオレを捉えた。

「ク…ロム…!」

そこに居たのはクロムだった。

そして、体が抱き抱えられた。きっとロスだ。ロスは体内に残っていた薔薇の蔓を抜き取った。

――ズルッ

「うっ……」

痛みで顔を歪めた。

その状況は誰が見ても酷いものだった。

クロムは暫くオレを見た後、あの人の方を見据えた。

「…何者だ、お前」

「ふふっ……」

あの人は少し口を吊り上げて微笑しながらクロムを見た。

「ククッ…へぇ。こないだの綺麗な子と格好良い子だ。キルを心配してきたの?」

クスクスと笑い馬鹿にしたように、あの人はクロムに聞いた。

「……さぁな。俺はただ頼まれてきただけさ」

「ふーん……」

「心配して来た方が良かったのか?」

クロムが挑発した様に聞くと、あの人はふっと笑った。

「…さぁね。まぁ、理由はどうあれ…君ともう1人の子が加勢に入られちゃうと…分が悪いね。今日はこれで失礼するよ」

あの人は、オレの方を見た。

「今日のところはここで退いてあげるよ、キル。だが…忘れるなよ。お前が犯した“罪”を。その罰はこんなもんじゃない。地獄を見せてやるよ」

そう言った後、「行くぞ、怜姫」と言い、洋館の屋根に。

怜姫さんも「…承知致しました」と、その後に続く。

「ハァ…ハッ……」

段々と視界が霞んできた。

「待てっ……」

「ゲホッ、ゲホッ…!」

クロムが追いかけようとした時、稀琉が咳き込んだ。

「稀琉っ」

ロスの呼び掛けが聞こえるが反応できない。

「さようなら。キルのお友達さん。また、今度…ね」

あの人はそう言うと怜姫さんと共に屋根の上から姿を消した。


「待て!…ちっ」

クロムはあの人の方へ行こうとしたが、オレを見てから舌打ちし、こっちに来た。

「おい、稀琉。しっかりしろ」

クロムがしゃがみこんで、オレに問い掛ける。

でもオレはあの人が消えた屋根の方を見た。

視界が更にぼやけてきた。

「稀琉、俺が分かるか?」

ロスも目の前で手を振ってる。


だけど、もう意識は飛びそうだ。


そして、オレが意識を手放す前に発した言葉は……


「ルキ……に…いさ…ん……」

「!」

あの人の…オレの兄さんの名前だった。

その瞬間、オレの意識は途絶えた。
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