Devil†Story
この日、キルは琉稀の植物園の中に居た。

「良いものを見せてあげる」と兄に言われ、いつもは父や母に「絶対に出るな」と言われているので絶対に出ない…あの小部屋を出て、離れにある兄の部屋の地下にある植物園に入ったのである。

「すごーい!」

初めて見る、西洋の植物に目を輝かせて辺りを見るキル。

「そう?これはねは…青龍という名前の薔薇で…青い薔薇なんだよ」


「ちょっと管理が大変だけどね」と笑う兄が指差すのは赤でも黄色でも、ピンク、白でもない青の薔薇。

「青い薔薇なんてあるの!?すごーい!!」

「ふふ。綺麗でしょ?こっちのはブルーヘブンって言うんだ」

「ぶるーへぶん?」

「そう。この2つは紫ではなくて…青の色素を持つ薔薇なんだよ」

「色素?」

「あぁ、ごめん、ごめん。キルにはちょっと難しかったね。要するに、きちんとした青い色ってこと」

「そうなんだー。でも、ここにあるのは全部青じゃないの?」

キルがそう聞くと、琉稀は待ってましたとばかりに 話始めた。

「それが少し違うんだよ。ほら、この薔薇をみて。これはアプローズといって…どちらかと言えば紫が強い薔薇。そして、こっちはミスティ・パープルっていうんだけど、少し青みの強いシルバーなんだよ」

「そーなんだ」

「まぁ、殆ど青だけどね。ただ、青薔薇は管理が大変で…危うく黒点病とウドン粉病になるとこだったんだよね」

「忙しかったからなー」とため息をつきながら言う兄は言っていたが、キルには何をいっているのか分からなかった。

黒点病とウドン粉病とは、数ある薔薇の病気の中の2つで黒点病は葉に黒褐色の斑点が現れ、葉が徐々に黄色くなり落ちる病気。ウドン粉病は、枝葉や蕾にウドン粉を振りかけたような灰色の菌糸が付着し、葉がチリチリになる病気である。

「薔薇さんも、病気になるの?」


「そうだよ。薔薇もね、大切に扱わないと俺達と同じで病気になってしまうんだよ」

琉稀はそう言うと、薔薇を大切そうに触った。「そっか!薔薇さんも病気になっちゃうんだね。じゃあ、僕が水をあげたい!」

キルはそう言うとキラキラした笑顔で言った。


「キルがお水かけてくれるの?ありがとう。薔薇たちも喜んでくれるよ」

「えへへ」

兄に誉められ、笑うキルに兄もニコリと笑いながら優しく頭を撫でた。


「じゃあ、お水の用意してくれくるから待っていてね」

「うん!!」

そう言って、ホースを取りに行った琉稀をキルは待つ。

ふと真ん中の方見た。

そこには1輪のバラがケースに入って入っていた。

まるでボトルキャップの中に入っている船ようにそれはそこに置いてた。

「わー、なんだろう」

キルはそれに近づいて見てみた。

その薔薇は紅かったがどことなく黒っぽく見えた。

「綺麗ー……」

思わずキルがそれに触れようとした時だった。

--ダメ

「!?」

声がした。遠くからともまた、とても近くともからとも…頭の中に直接語りかけているようにも聞こえた。

--ダメダヨ

また声が聞こえた。


「何…?君は誰?」


--…………

語りかけても何も反応はない。

キルがまた語りかけようとした時だった。

「お待たせ」

「!」

琉稀がホースを片手に帰ってきた。


「こっちに回すとミスト状にになるから、そっちでかけてね」


琉稀はキルの異変に気付かず、ホースを渡した。


「あっ……う、うん」


今のはなんだっんだろう…?

キルはそう思いながらホースを受け取った。

さっきまでキラキラした笑顔を振り撒いていたキルが、何やら考えている事に琉稀はようやく気付いた。


「? どうかした?」


「えっ…?」

兄に語りかけられ、思わず兄の顔を見た。

「もしかして……薔薇の棘でも刺さっちゃった?」

「あっ……大丈夫だけど…。あ、あのね?兄たん」

「ん?」


キルはさっきの事を聞こうとしたが、何故だか兄にその事を聞いてはいけないような気がして言葉にならなかった。

「どうしたの?」

琉稀はキルの顔を覗き込んだ。だから、違う言い方で聞いてみることにした。

「あっ……あのね?薔薇さんって……お話できるの?」

「!?」

琉稀の顔から笑顔が消えた。

その雰囲気がキルにも伝わる。

「に……兄たん?」

「……どうして?」


「えっ……?」

「どうしてそう思うの?」

そう問いかける兄の表情はいつもとは違う厳しいものだった。

「あっ……えっと…」

「キル……まさか、何か聞こえたの?……そうなの?」

「!」

更に表情が厳しくなった琉稀が一歩、キルに近寄った。キルはなんだか怖くなり、一歩後ろに下がる。

「あっ……ち、違うよ?さっき、兄たんが…薔薇さんにも病気があるって言ったから…だ、だから、お話もするのかなって思っただけ」

咄嗟にそう嘘をついた。

さっきも感じたことだが、兄にその話はしてはいけないような気がしたからだ。

なにより…それを聞いた時の琉稀の雰囲気が、表情が怖くてとても言えなかった。

普段はとても優しい兄。その兄が、ここまで怖くなるには理由があると、幼いキルにも感じ取れた。

兄は暫く黙っていたがやがて、一歩下がりながら。

「……そっか。そうだよね。でも、お話はしないよ」

そう言って、普段の優しい兄に戻った。

「そ……そうだよね?あはは…」

兄の雰囲気が元に戻りほっとするキル。

「じゃあ、お水あげてやって」

「う、うん」

さっき、兄に言われた通りにホースの先端部分を回しながら、キルは水をやった。

さっきのは……本当に兄たんだったの…かな?


たまに見せる厳しい表情。大体、そうさせる原因は寝癖と時折出す高熱の時だった。そして、今は何かの声を聞いたということ。

いつも自分に関係のある事だ。


兄たんは何を気にしているのだろう?

聞いてしまえば楽なのだろうが、それを聞いたら…何かが壊れてしまう…と思ってしまう。

だから聞けない。

ふと兄を見る。

兄は自分と目が合うとにこりと笑う。いつもの優しい兄たんだ。

怖いわけないのに……なんでそう思ってしまうのだろう。

答えは出ないまま、次々と水をあげていくと、さっきの薔薇が目に止まった。

「あっ、兄たん。あの薔薇さんはどうしてガラスのなかに入っているの?」

「あぁ、あれはね……特別の薔薇なんだ。咲いてはいるけど、まだ綺麗になるんだ。…綺麗に育ったら、キルにあげる」

「本当!?…わぁ!」

思い切り振り返ったので、大きな帽子がズレて前が見えなくなった。

そんなキルに兄はあはは、と笑いながら帽子を直す。

「やっぱりまだキルには大きすぎるね」

「うん。でも…兄たんがくれた帽子だから嬉しいんだ」

キルがそう言うと、琉稀はまた優しくにこりと微笑んだ。

その笑顔にキルも笑った時だった。

「--キル!!」

「!?」

自分を呼ぶ怒鳴り声にも近い声で兄の後ろを振り返る。

「か…母たん、父たん……」

そこにいたのは、2人と同じ金髪だが瞳はエメラルドグリーンの母と、髪の色は黒に近い茶色で違えど、2人と同じ青い目をした父だった。
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