Devil†Story
「どうして、こんな所に居るの!あそこから、出ちゃダメって言ったでしょう!?」


母親が、怒りながらキルに近付いた。

「あ……ご、ごめんなさい……」


謝ったキルをチラリと見る兄。

キルのしゅんとした顔を見た兄は母親に言い返す。

「別にそこまで怒らなくてもいいじゃないか。キルはまだ5歳だよ」

すると、母は琉稀の方を見た。

「何を言ってるの?琉稀。この子は外には出てはいけないのよ」


そこで、ハッとしたようにまた声をあらげて話した。


「貴方ね、琉稀!キルを外に出したのは!」

母親の言葉にキルは慌てて、言葉を発した。

「ちっ、違うよ、母たん!兄たんは悪くないよ!僕が……」


「貴方は黙っていなさい、キル。それに″たん″は止めなさいと何度も言っているでしょう?」


「ッ……ごめんなさい。でも!」


「いいよ、キル」


「! 兄たん……」


琉稀の言葉にキルは話すのをやめる。


「そうだよ。俺がキルをここに連れてきたんだ。だけどさ、母さん。確かにキルを勝手に連れ出したのは悪かったけど……だけど、さっきも言った通りキルはまだ5歳だ。少しは外に出ないといけない年だし、何よりそこまで隔離することはないでしょ」


琉稀のその言葉に、母親は更に声をあらげた。
「貴方は全然分かってないわ!良い!?キルにはこの代々伝わる名家の……--」

「--母さん」

ゾクッとするような低い声で琉稀はその先の言葉を止めた。

その冷たさに母親も言葉を失う。

「……まだ、キルは子どもだよ。そんなこと今、言うことじゃない」

「……」

母親は目を伏した。

「……琉稀」

今まで黙っていた父が口を開いた。

「いきなり、怒鳴り付けて悪かった。それに、母さんも言い過ぎたことも、お前が何を言いたいのかも分かっている。だが……母さんも心配してたし、何より…キルが居なくなると言うことが″どういうことか“お前にも分かっているだろう?」


父親の静かな声で琉稀も黙る。


「……分かっているよ」


「とにかく……今後一切、勝手に連れ出すなんて真似するな。……分かったな?」

じっと琉稀を見つめる父。その静かな威圧に琉稀もスッと厳しい表情を緩ませた。

「……分かった」

短くそうとだけ、両親から目をそらした。

「……」


--どうしよう。

重い空気にキルは戸惑う。

また、僕のせいで……皆がバラバラになっちゃう……。

実は、キルが3歳の時までは家族全員が今は両親だけで生活している本堂で仲むつましく暮らしていた。

それが、キルが高熱を出して寝込んで、起きたらあの小部屋に住みなさいと急に言われたのだ。

なんでといくら聞いても両親は何も言わなかった。

そして、暫くは兄と両親は一緒に生活していたが、それ以来仲の良かった兄と両親の折り合いが悪くなり、兄も1人で離れに暮らすこととなった。

それを幼いキルは自分のせいだとずっと思っていた。

だから、嫌だった。

自分のせいで家族の仲が悪くなることが。

僕がしっかりすれば……。

キルは、そう思うと口を開いた。

「母たん……いや、母さん、父さん!ごめんなさい!」

「!」

キルの言葉に全員がキルを見る。

「僕、これから絶対にお庭以外には出ないから安心して!」

笑いながら言うキルに兄は、驚きながら口を開く。

「キル。キルが、悪いんじゃ……」

「大丈夫だよ、兄た--兄さん!僕、大丈夫だから!」


いつもの呼び方ではなく、“兄さん”と言ったキルは琉稀に笑いながら言った。

「ありがとね、兄さん!でも、僕本当に大丈夫だから」

そう笑うキルを見ると琉稀の胸がチクリと痛んだ。

この子はまだ5歳なのに、そこまで考えているのか……。

自分が我慢すれば、家族が元に戻ると……信じているのか。

俺は反発しか、そのことを伝える手段が浮かばなかったのに……。

そのキルの優しさは、両親にも感じ取れた。
「キル……」

先程まで怒っていた母親も、スッと怒りが消えた。

「……キル」

「は、はい」


父親の静かな声に、キルは緊張しながら返事をする。

「いきなり、そんなこと言って……悪かった。そんなに気にすることじゃないから、あまり考えないでくれ。琉稀も……悪かった」

「そうね……」


父親の言葉に母親も頷く。


「私もいきなり怒鳴りつけて……悪かったわ。2人ともゴメンね」


「父さん、母さん……」


琉稀は驚いた。あの両親が……俺にまで謝罪なんて……。


そんな両親にキルも驚いたが、笑いながら答えた。


「そんなことないよ!父さん、母さん!」

キルが笑うと、両親も久々に笑った。


そんな3人を、表情が読めない顔で見ていた。

そして、その日の夜。

2年振りに両親が、キルと琉稀を本堂に呼んで皆で夕食を取った。

久々の、家族団らんにキルは大喜びだった。

「キルはなんでも食べるんだな」

父親が、好き嫌いのないキルに話しかける。

「うん!僕、なんでも食べれるよ!」

「そうか。良いことだ」

父親に褒められ、えへへと笑うキル。

しかし、兄は黙ったままだった。

というのも、今まで折り合いが悪かっただけにどうしたら良いのか分からなかったのだ。

暫くすると、父親が話始めた。

「……キル」


「なに?」


「……外に出たいか?」


「!」


「え?」


「あなた…!」


母親は驚いたが、父親は「いいから」と、母親をたしのめた。


そして、琉稀は父親の顔を見た。キルはきょとんとしていたが、父親の真剣な表情に、キルはよく考えた。

「正直に答えていい。……外に行きたいか?」

そんな父親の言葉にキルは静かに、答えた。

「んー……このお家の外は……見てみたいけど……でも、今日みたいに兄さんとお家の中行ったり、家の前でちょっと遊べたら……それで良いんだ。で、今日みたいに……たまにで良いからこんな風に皆でご飯食べたりできたら……それだけで僕は良いよ」


「キル……」


あまりにも、小さな幸せにだれもが驚く。

とても、5歳児の言う言葉とは思えないくらい小さな願い。

しかし、キルにとっては、大きな願い。

父親は暫くすると、黙っていたが、やがて目を瞑りながら答えた。

「…そうか。分かった。だが、お前が少しでも外の世界を見てみたいのなら…行かせる。お前にも……それを、知る権利はあるからな。私たちだって……親なんだ」

「あなた…」

母親も、黙って父親の言葉を受け入れた。


「父さん…」


「……琉稀」

「…何?」

不意に話し掛けられ、琉稀は驚きながらも返事をした。

「お前にも、苦労をかけるが……これからも、キルを頼んだぞ」

「父さん…」

久々に言われたその言葉に琉稀は戸惑いながらも、頷いた。

久々の暖かな空気。

キルは嬉しくてたまらなかった。

そして、食事が終わり、キルが片付けようと立ち上がった時だった。

--ふら

「……?」

目眩がした。なんだか、体が暑く、重い。

なん…だろ……。

体も…頭も重い……。

「キル?」

そのキルの異変に琉稀はいち早く気づいた。

「あ……なんでも…ないよ」


「本当?顔、真っ赤だよ?」


琉稀がキルの額に手をやろうとした時だった。


--あれ……?


なんだろ……立ってられない……


ドサッ

耐えきれず、キルは倒れた。

「キル!?」


家族全員が、キルに駆け寄った。

琉稀はすぐさまキルの額に手を当てた。

「凄い熱だ!さっきまで、そんなことなかったのに…」

「急いで、キルを“鬼の間”に!」

「分かったわ!」

鬼の……間……?

兄に運ばれながら、薄れ行く意識の中でキルは思った。
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