Devil†Story
クロムたちがカフェを出ようとしていた時、稀琉はある部屋に囚われていた。



「うっ……」



そこは昔、稀琉が高熱を出したときに連れてこられていた…鬼の間。


その場所はあの時と同じく部屋の真ん中に水晶があり、鬼灯が飾られていた。


あの時と違うのはその奥の、手枷に囚われているということ。


「ハァ…ハッ……」


しかし、高熱が出たときと同じく稀琉の頭はハッキリせず、息苦しさに襲われていた。


昔は体が弱いだけと思っていたが、今なら分かる。この部屋には…鬼の力が溢れかえっている。その力に…オレの中に流れている鬼の血が反応しているからだと。


スッと襖が開き琉稀が中に入ってきた。


「どうだい?キル。お前の中にある力が久々に反応する今の気分は?」


辛うじて頭を上げて兄の顔を見る。そこには、楽しそうにしている琉稀が居た。


「に…さん…」


「苦しい?ふふ…いいんだよ?…もっと力と同化して」


そう言うと、真ん中にある水晶の柱の一部を折って稀琉の前に近付ける。その瞬間、待っていたとばかりに水晶が淡く光出した。その光を見て稀琉は、怯えるように身を捩った。


「や…やめて…」


「…どうして?俺が喉から手が出るほど欲しかったその力を…お前は持っているのに拒むっていうの?」


稀琉の言葉などもちろん聞き入れず足早に稀琉の側に近付いて行く。


ーードクン


「ッ…!」


近付いてくるその物体が光を増すごとに、稀琉の胸は苦しくなっていく。


「嫌だ…よ、お願い…やめて…!」


もう目の前にきたそれから逃れるように顔を背ける稀琉。


肩で息をする稀琉の様子に楽しげにしつつ琉稀は、顔を背けることを許さないかの様にもう片方の手で稀琉の顔を自分の方に向かせる。


「誰に向かって言ってるんだ?キル。…本当にムカつくね、お前は。お前がその力を受け継いだせいでこんなことになったのに…お前はその力をそこまで拒むなんて。…それを拒むことを…俺が許すとでも思った?」


「うあっ…!」


グイッと水晶を胸に押し当てる。その瞬間、今まで以上に胸が苦しくなり、嫌って言うほど力が流れ込んでくるのが体で感じられた。


「あ…ぐ…!!」


「いらなかったらなんで受け継いだ?…なんで、その力を受け入れた?そもそも…お前がいなければこんなことにならなかったのに…!」


「あ…う…ぐ…っ…!!」


体が熱くてたまらない。このままこの力が流れ込み続ければ、体が燃えてしまうのではないだろうかと思うほど熱かった。


「……」


苦しむ稀琉を見ていた琉稀であったが、不意にその顔から笑みが消える。そして静かに水晶を稀琉の体から離した。


「うっ……」


とてつもない息苦しさに稀琉は、ダランと体の力を抜き肩で呼吸をした。ハァ、ハァと息を整えようとするが、全く治まらない。


「……」


琉稀は黙ったままだ。


「……?」


おもむろに顔をあげた稀琉。その兄の表情は、怒っているようにも見えたし、何処か悲しげな顔をしているようにも見えた。


「に…いさん…?」


「……」


氷のような目が稀琉を捉えた時だった。


「琉稀様」


「!」


そこに来たのは玲姫だった。


「どうした?」


「侵入者が来ました」


「そうか。…すぐに行くから先に行って指令を出しておいてくれ」


「御意」


玲姫はペコリと頭を下げて部屋から出た。


「……キル」


低く冷たい声に思わずビクリとなる稀琉。


振り向いた兄の表情は、先程とは違い元の卑しい笑顔に戻っていた。苦しさに顔が歪んでいるだけではない。恐怖で返事ができなかった。返事をしない稀琉の頬に間髪入れず平手打ちをした。

「つっ……!」


平手打ちだけではなく苦痛が残る稀琉の体に…腹部に蹴りを入れた。

「ゲホッ……ゲホッ…!」


下を向いて咳き込む稀琉の顔を無理矢理上に向けた。


「……俺が呼んだら返事だろうが」


「はっ……ハイ…ごめんな…さい…」


「はっ…謝れば良いと思って。……まぁいい。これから俺は戻る。……お前に地獄を見せる準備をしにな。…その間その苦痛を味わっていると良い」


腹部に蹴りを入れられて今にも意識が飛びそうな稀琉は力が流れ込んでくる苦しみと薄れ行く意識の中、もう一度兄の顔を見る。


…やっぱり憎しみの中に……なんだか悲しそうな顔をしてるな…。


なんでだろ……でも…


「もっと俺を満足させろよ?」


スッと離れていく琉稀の背中を見ながら稀琉の意識は段々と暗闇の中に落ちていく。


苦しい……


地獄を見せる準備をしてくると言っていた兄。それが自分にだけ向けられているのなら良いが…麗弥は兄に囚われているままだ。


無事でいて…麗弥……。


そう願う間に視界は暗くなっていく。


嫌だ……。


今、意識を無くせば…絶対に悪夢を見る……。


見たくない……怖い…よ……


必死に意識を保とうとするが、それは許さないとばかりに暗闇に引きずり込まれる。


許されないのは…分かってる……けど…。


今、ここに落ちれば……きっとあの夢を見る…。


自分の罪に何もできずに堕ちていくあの夢を……。

誰か……助けて……


……………兄さん…


スッと稀琉の意識は暗闇に落ちていった。


ーーポチャン


その目が完全に閉じたとき、透明な雫が地に落ちた。
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