Devil†Story
「ドール…?」
「そうだぜぇ。何にも知らねぇんだなぁ、キルサマ。優しい俺様が教えてやるよ。ドールってのは、その名の通り、物や作った器に術で他者の命を吹き込まれた人形の様な者の事さぁ。と言っても、別の肉体に他者の魂が完全に融合することはねぇから純粋な生き物の命とは違うがなぁ。魂といわれる程、高等なもんは宿ってねぇからな。神じゃねぇ生き物がイキモンを作るって言ったらこれでも上等の方だろうなぁ」
驚愕している稀琉の表情が面白いのかニヤニヤ笑いながら言葉を続ける。
「ドールには2パターンあってこいつらのようないかにも人形の物をベースにした奴と……俺様の様に人形の器を形成して作られるより性能の良い奴がいる。ドールの特徴としては…肌が白くて目の光がガラス玉のように透き通っているんだなぁ。後は魂がなくて、イキモンにしとくには不安定で短寿命、感情も1つか2つぐらいしかねぇってことだなぁ」
楽しそうに語る彼とは別に、稀琉の顔から血の気が引いていく。
「まぁ、他者でも、術者の魂を分けられれば……更にイキモンに近いドールが出来上がるらしいが高度な術を使えなければ出来ねぇからな。琉稀サマも魂を半分分けて1体作るのがやっとだったしなぁ」
「!」
稀琉が目を大きくさせる。
つまり……兄さんは魂を半分使ったと言うこと……。
それは……つまり……!
真っ青になっていく稀琉を尻目に更に言葉を続けた。
「俺様達はあの有名な七つの大罪をモチーフに創られた。俺様は怠惰のスロウス様だ」
ニヤリと笑うスロウスと名乗った彼の言葉に続けたのはクロムだった。
「ということは、後6人居るって事だな?」
「そうだ。嫉妬(エンヴィー)、傲慢(プライド)、色欲(ラスト)、強欲(グリード)、憤怒(ラース)、暴食(グラトニー)……だがその中にはドールじゃねぇのも居るがなぁ。魔物の餓鬼2人でプライドとラースのというコードネームにしてやがるんだ。このカス人形共も一応そのくくりでこいつらは魂を貪ろうとする本能が強いから“グリード”の部類だ。後はオカマのエンヴィーに……お前らはもう会ってるが琉稀サマにピッタリくっついてた金髪の女もドールだ……ラストだぜ」
「!!」
稀琉の青色の瞳が大きく開かれる。
怜姫……さんが創られた命……?
「あの女が琉稀サマのお気に入りで琉稀サマの魂を半分分けて創られた奴だ。お気に入りだからか、名前までついてやがるのが気に入らねぇけどな。まっ、琉稀サマには悪いけどあいつは失敗作だと思うけどなぁ。魂が入ってても感情が一切無いからなぁ」
「ギャハハハ!ざまぁねぇな!」と下品に笑うスロウスに稀琉は言葉が出なかった。
あの怜姫さんが……ドールだなんて信じられない。
確かに感情は読みにくかったけど……普通の人間に見えたのだから。
「あぁ、因みになぁキルサマ。俺様達は創る術者によってその少ない感情が決まるんだがなんで俺様達が七つの大罪をモチーフに創られたのか……分かるよなぁ?」
「!」
意味深なスロウスの言葉に一気に現実に返る稀琉。
次の言葉は稀琉が聞きたくなかった言葉だろう。
「俺様達が創られたのは5~6年前。創るまでの製作時間は俺様達が創られる更に5年前だ。琉稀サマは……俺様達に負の感情を込めて創ったんだよ!」
「っ…!」
ギュッと胸の辺りを押さえる稀琉の様子が余程嬉しいのかスロウスは言葉を続けた。
「よっぽど怨みが強かったんだろうなぁ。お陰で俺様は戦闘種族になっちまったぜ!」
「あ……」
「!」
カタカタと震える稀琉の姿をみてニヤリと笑うスロウス。
しかし、それ以上に厳しい目付きで稀琉を見るクロムには気付かず言葉を続ける。
「そうだ!キルサマ…あんたへの怨みが俺達を産み出したんだ!!」
「あ……あ…………!」
先程まで不安に蓋をしてなんとか向き合っていた稀琉の心が悲鳴をあげ始めた。
「…おい、稀琉」
語りかけるクロムの言葉に反応出来ないくらいに。
「ありがとなぁ、キルサマ。あんたのお陰で俺様達は産まれる事ができたのだから感謝するぜ?」
大笑いをするスロウスにクロムが稀琉に語りかけるのを止め、口を開いた。
「ごちゃごちゃうるせぇな。モブが。さっさとかかってこいよ」
剣を構えたのと同時に、スロウスはパチンッと指を鳴らした。
「はっ、テメェは必要ないから、こいつらと遊んでなぁ。ガリガリ!」
指を鳴らした瞬間、マリオット……グリード達が一斉にクロムの方へ向かってきた。
「ちっ……!」
一斉に向かってくるグリード達に向かい剣を振るう。
一番手前に居たマリオットの腹を切りつけて真っ二つにした。
そのままその後ろに居たマリオットの首を跳ね上げる。
少し先の地面にジャンプしてグリード達と距離をとりチラリと稀琉を見る。
「おい!しっかりしろ、稀琉!!」
しかし、変わらず稀琉は空中を見つめているだけ。
「ほらほらほらぁ!余所見なんてしてる場合じゃねぇぞ!?テメェもぐちゃみそに殺して飾れって言われてるんだからなぁ?」
「つ……!」
一斉に飛びかかるグリード達の攻撃にクロムは避けながら応戦する。
稀琉の心に響いた言葉はクロムをめちゃくちゃに殺して飾れという言葉。
ドール達の出現、クロム達を兄が自分を苦しませるために攻撃されている事実。
目の当たりにすればする程、稀琉の心にヒビが入っていく。
「っ……」
頭を抱えて膝をつく。
クロムは、更に降ってきたグリード達に応戦している。
明らかに苦しんでいる稀琉を見たスロウスはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべ武器を構えた。
「キルサマ丈夫なんだろ?少し位傷付けても問題ねぇよなぁ!?」
「!」
残り5体位まで倒したクロムは目の前に居た2体を凪ぎ払いながらその言葉に後ろを振り返る。
スロウスがあの大きな鉄棒を構え稀琉に近付いていた所だった。
それでも、稀琉は膝をついて下だけを見ている。
あの様子では攻撃が来たとしても避ける気は更々ない。
「あの馬鹿…!」
ギリリッと歯軋りをしながらクロムは呟いた。
そうしている間にもスロウスは攻撃体制に入っている。
「そーんなに琉稀サマの事を気にしてるのなら…」
スッと鉄棒を投げるような体勢になる。
「黙ってこのまま琉稀サマの元へ行くんだなぁぁ!」
ブンッと風が切る音がし、鉄棒が投げられる。
「ちっ…!」
投げる体勢になる前に、近付いていたグリード2体を横に剣を振るい真っ二つにし、後ろに居たもう1体を剣を投げて仕留めた。
素早く剣を拾い上げ、鉄棒を投げるモーションをしているスロウスを見つつ稀琉の方へ走る。
いくらあいつが鬼の血を引いていて丈夫であろうがあれに当たれば只ではすまない。
かといってあのデブに攻撃したところで間に合わねぇ。
そうなれば……。
走りながらコートのファスナーを素早く下げる。
「おらぁ!!!」
完全に鉄棒から手を離し投げつけたスロウスは雄叫びを上げる。
稀琉の体に鉄棒が届くまで残り30cmといったときだった。
ーードスッ
鈍い音が響いたが稀琉の体に痛みが走ることはなかった。
その代わりに頬に生暖かく鉄の匂いのする液体がついた。
「えっ……?」
何が起きたのか分からない稀琉はようやく顔を上げた。
「……!!!」
そこで稀琉が見た光景は……
「ぐっ……」
目の前……5cm程先にある血で濡れた鉄棒と、その更に20cm位先で両手を広げ立っているクロムの姿であった。
「あ……あぁ……!!」
その体を鉄棒が貫いていた。
「ゲホッ…」
その腹と、口から血を流す。
クロムの足元にみるみる内に赤い水溜まりが出来ていった。
ヒラリとコートが風に舞った。