Devil†Story
こういった目をしている奴は引かないことをクロムは知っていた。


ふぅとため息をつきながらクロムは口を開く。


こう言ったところで、稀琉が行かないことは想定の範囲内であった。だから、何も考えずにただ稀琉が覚悟を決めるのを待っていたわけではない。その間に考えていたのだ。稀琉が先に行く決心がつく答えを。


正直に言えばクロムは体のことを知らない、もしくは話せない稀琉がここにいるのは邪魔でしかないので、考えていた答えを稀琉に伝える。


「……俺の体は痛みを感じにくい体なんだ」


「えっ?」


思った通り困惑したような顔をした稀琉にそのまま言葉を続ける。


「ついでに言えば血液中の血小板の数も常人に比べて多い。だから、血も止まりやすい。そういう体質だ。お前と同じで」


「!」


そして、またクロムが思ってた通り微かに目を大きくさせた。


自分は鬼の血が混ざっていて、他の人間とは違う。人と付き合っていくには人に合わせなければいけない。自分の体質、特別な所がコンプレックスであっただろう。そんな稀琉を安心させる方法が最後に言った“お前と同じで”。


コンプレックスであるその部分と敢えて同じと言うことで安心感を与え、尚且つその後に合流した時に出血が止まっていても不思議ではない理由の答えがこれであった。

「なんだよ、その顔は。この世界で生きてるんだぞ?人と違う部分が他の奴等にあったって不思議じゃねぇだろ?お前だけが特別の訳ねぇだろうが」


そして、その安心感を更に高める一言。


十人十色。


そんな言葉があるように、人は誰しも他の奴等とは違う。その事をハッキリと伝える。


「だから俺のことは心配するな。俺の役割はここでこいつを殺すことだ。お前はお前の役割をこなせ」


役割をこなせ。と伝えたのにも、もちろん理由がある。そう伝えることによって、先程までは枷となっていた稀琉の責任感の強さを利用することが出来る。


責任感が強い稀琉にとって、先にいかなければいけないという使命感が湧いてくるのだ。
普段の彼ならそこまで考え付いてももっと短く伝えたであろう。しかし、今はゆっくりときちんと稀琉に伝えた。


それは何故か。


全てはこの場所にいられると不都合な稀琉に後ろめたさを感じさせずに行かせるためであった。


普段でこそ口調は乱暴かつ、言葉足らずで一見は嫌な印象を受けやすい彼だが、常人よりも鋭い観察力、洞察力があるのだ。


行く先々で稀琉や麗弥の心に彼の言葉がストンと入ってくるのはどう言えばベストか彼が長年いる間に見ていたからである。


そこが彼が優しいと2人に言われる理由の1つでもあった。


しかし、先程も言った通り普段はその能力を発揮させることはない。


そして、彼はそんな能力があるとは認識もしていない。


なので、自然にやってのけてしまうことが尚更安心感を与えるのに適していた。案の定、稀琉はその言葉を聞いて思い直し始めたからだ。


オレと同じで……か。


人と違っていたオレは人と同じ場所を行くのに合わせなければいけないと思ってた。


でも、今は違う。


オレだけが違うわけがないのは分かっている筈なのにな……。



やっぱり視野が狭すぎるのかな…。


それにオレはオレの役割をこなせ…か。


そうだよね。


きっと痛みを感じにくいといっても全く感じない訳ではないだろうし、すぐに血が止まると言っても流れた血の分だけ貧血にだってなるはずだ。


それでも、クロムは自分が戦うべき相手をきちんと見据えてるんだ。


リスクがあったとしても、彼には覚悟があるはずだ。


その覚悟にオレがどうこう言うのは可笑しいし、失礼だよね。


オレもさっき固めた覚悟を全うしないと。


クロムがくれたチャンスをみすみす逃すわけにはいかないからね。


そう決心した稀琉はゆっくりと口を開いた。



「…分かった。君が決めた覚悟をオレは信じるよ。でも、絶対に無理はしないで欲しい」


真っ直ぐな青い瞳がクロムを見つめる。


「あぁ。分かってる。さっさと行け」


「うん!あっ…その前に…」


今までのやりとりを傍観していたスロウスだったが、稀琉が走り出したことに反応する。命令は、稀琉の捕獲及びその仲間の排除。
その他のことは何も考えていなかったが、それだけが頭にある彼は行かせまいと行動を起こす。


「行かせるかよ!!」


クロムの方にある鉄棒を、稀琉に当てようと鎖を引っ張るスロウス。しかし、その鉄棒は動かなかった。


「なんだぁ!?」


動かない鉄棒に、クロムの方を見るとクロムが鉄棒を抱えていた。


「やらせねぇぞ。テメェの相手は俺だ」


そう言うクロムの言葉は頭に入っておらず、スロウスは考えていた。


(あの“加工”がされてるし、本気を出してないとはいえ動かねぇだと?細っこいなりしてると思って油断したか…)


「クロム……!」


走って扉の方に向かっていた稀琉は何かに気づき何故かUターンし始める。


「…ハッ?何処行く気だーー」


稀琉はさっき俺が投げて倒した人形の方へ走っていき刺さってる剣を抜いてこちらに体を向けた。


「えい!」


「!」


掛け声とともに腕を後ろに大きく振りかぶって剣を投げてきた。円を描きながら剣は見事俺の近くに突き刺さる。


「使うでしょ?」


どうやら後ろを振り返った際に俺の側に剣がないのに気付いたらしい。戦いやすいようにとわざわざ取りに向かったようだ。


…ったく。そこに気付けるなら俺に言われなくても初めからきちんとやれっての。そう思いながらもクロムは腕を上げて受け取ることを示す。


「…すぐ片して向かう。それまでくたばんなよ」


変わらないクロムの声に安堵しつつ、チラリと本当に刺さっていないのか腹部を確認する。コートで患部は見えないが今クロムはその鉄棒を横に抱えている。


もし仮に怪我にたいして耐久、痛みや出血がしにくい体とは言え刺さっていたらきっと意識が朦朧としてるはず……。


本当に刺さっていないのかもしれない。


そう信じ、稀琉は大きく頷いて前を見る。


そして、考えていたスロウスの横を稀琉が走り抜けようとした。


「行かせねぇぞ!!」



その光景をみたスロウスは考えることをやめ、稀琉の左腕を掴んだ。


その時であった。


「ーー離せ」


「!」
「!?」


そう低い声で言い、スロウスを睨み付けた稀琉の青い瞳が氷のように冷たく、怪しい光を帯びていた。


普段ならば戦闘中であっても発することのない低い声、凍りつきそうな冷たい瞳で睨み付ける稀琉。


何より変わっていたのはその雰囲気であった。優しい雰囲気が必ずしもどこかに残っている稀琉から、禍々しいと感じるほど冷たく、威圧感を感じた。その姿はクロムも初めて見るものであった。圧倒的なオーラに思わず固まり、手を離すスロウス。


「ありがとうね!クロム!」


そう振り返り笑う稀琉は、いつもと同じ稀琉であった。



そして、そのまま奥の扉の先へ姿を消した。
< 449 / 541 >

この作品をシェア

pagetop