Devil†Story
「さて。武器は手の届かないところへ放り投げてくれるかな?」



バンとスイッチ音がして室内が明るく照らされた。その眩しさに目を細める。パチンと神父が指を鳴らすとぞろぞろと兵隊が出てきた。


「あららら。囲まれちゃったなぁ」


まるでお手上げと言わんばかりに両手を軽く上げて首を左右に振るロスを横目に見たクロムは少しその様子を見てから肩をくすめる。


(…'"様子見"ってことか)


「……」


これから起こることは安易に予想できた為、大きく溜息をつきながら剣を床に放り投げた。そんな様子を知らずに男が話し始めた。


「全く……。君達のようなただの子どもがこんなところまで来るとは驚きだよ。2人で何人か…いや何十人も私の部下をやったみたいだしな」


先程通ってきた道を顎で指しながら不適な笑みを浮かべる。


「……」


黙って神父を見ると勝ちが確定しているからか余裕があるように教壇に立って上機嫌な様子だ。


「どうだ?私の元につかないか?何処かの組織の所属だろうが、今こちら側につけば命は取らないし待遇も良くしよう」


「…アンタの目的は?」


…ここに来て勧誘か。ようやく聞けそうな場面がやってきた。様子見も面倒なので早く済ましてしまおうと即座に目的を問う。


「目的か。今この国はあまりにもぬる過ぎる。他国に頭を垂れて平和ボケした国民が蔓延っている。…それでは成り立たない。だからこそ昔のような国家に戻す必要があると思わんか?」


礼拝堂の奥にある像に向かってまるで祈りをあげるように手を広げる男。


「…へぇ。また神父様とは思えない発言だな」


「何かを得るためには犠牲は付きものだからな。いずれは私がこの国を支配する総帥となるのだ。先ほども言ったが待遇も良くするし命も奪わない。こちら側につくんだ」


「さぁ」とこちらに手を差し出してニコリと笑う男。周りの武器さえなければ迷える人に助けを差し伸べる本来の神父の姿に見えるだろう。その言葉にクロムは何も答えずに神父を見る。静寂の時が刻一刻と刻まれる…はずだった。


「ぶっ…」


不意に聞こえた吐き出す声に後ろを振り返ると後ろに居たロスが肩を震わせながら顔を手で覆っていた。


「…?」


不思議そうにロスを見た神父。初めはただ震えているだけかと思っていたが明らかに様子がおかしかった。次の瞬間にその震えの正体が露わになる。


「くくふっ…アハハハハハ!ちょっ…待って…ふふふ。いや…ぶふっ…どっ…どう考えたって…ククッ…む…ヒヒッ…むり…アハハ…無理だろ……アハハ!!」


なんとこんな状況下だというのにロスはまるで笑い転げるかの如く爆笑していた。


「な!?きっ貴様!」


取り囲んでる部下の1人が更に銃口を突きつけて威嚇するものの全く気にせずに腹を抱えて笑っていた。


「マジ馬鹿じゃん!無謀通り越して…無理…ヒヒッ…ダメだ…腹いてぇ…アハハ!」


「うるせぇな。笑いすぎだろ」


「いや…だって…アハハ……ぶふっ…じょっ…冗談にしたって…くっ…国を支配するとか……現実見えてなさすぎて……ダハハハハハ!ヒー…ダメ無理…息できな…イヒヒヒヒ」


あまりにツボに入ったのか変な笑い方をするロスを呆れたように見ながら答える。


「そういう冗談を言って和ませてるんだろ、神父様は。…それか本当に何も理解できてない馬鹿なのか」


「…!」


馬鹿にしたように笑みを浮かべるクロムやいまだに笑い続けているロスに対して苛立ちを露わにした表情で男は睨みつける。


「口を慎め小僧!」



頭に銃口を突きつけていた部下の男が頭を小突くように銃の先端をぶつけてくる。痛みがどうこうではなく単純にイラッときたクロムはチラリと銃口の位置を確認する。


「…てめぇ。そんなに俺の頭に銃を突きつけんのが自信ねぇのか?当たってる…っての」


「うお!?」


少しの間を置いてから男の手を掴み、捻りあげるようにし、関節技を決める。いとも簡単に銃は男の手から滑り落ちた。


「このガキ!痛い目に遭わないとわかんないようだな!」


その言葉と同時に周りにいた男達が一斉にクロムめがけて銃を発砲する。ロスはまだ笑いながらもその場から離れる。クロムは、瞬時に技を決めていた男の体を持ち上げて盾がわりにした。


「まっ、待て…!ぎゃあ!」


やめるように仲間達に言うのも束の間、盾の代わりとなり文字通り蜂の巣となってしまう。


「お遊びはこのくらいにしようぜ神父様。アンタの誘いはお断りだ」


そのままスピードを上げて神父目掛けて走り出すクロム。その様子を見た神父だったがスッと落ち着きを取り戻して話をし始める。


「……残念だよ。本当に君は立場が分かっていないようだね…」


神父との距離が数メートルまで迫った時だった。


ドンッ!


「!」


上の階に隠れていたスナイパーが頭を目掛け銃を発砲した。その音に気付いたクロムだったが時すでに遅く……。


ーーチュン!


「…!!」


被弾した。被弾した銃弾はクロムの側頭部から反対側へ抜けていった。
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