Devil†Story
「本当だ。確かにこれは吸血鬼の歯型ーーじゃなくて!それよりもよ。さっきの話、誰に聞いたんだよ」


歯形を見て一瞬さっきまでの疑問が消えかけていたロスであったが再びその疑問をクロムにぶつける。


「あっ?こいつに決まってんだろ」


「他に誰がいんだよ」と麗弥のカラスを手に止まらせ、カラスの体を視診しながら答える。


「え!お前クロー以外のカラスの言葉も分かるのか?」


驚いた表情を浮かべたロスはクロムを見た。クロムには小さい頃から一緒に暮らしているクローという名前のカラスがいた。2人が出会った時からクロムにはクロー…カラスの話している言葉を理解する能力があり、それがクロムとロスにカラスが支給されていない理由の1つであった。わざわざ既にバディの関係があるカラスが居るのに新しいカラスを支給する必要がないからだ。ロスに関しては言わずもがな。動物はカンが鋭く、悪魔であるロスに怯えてしまうことと、四六時中クロムと共に居るからロス個人的にはカラスを所有していなかった。


「一応な。クロー程は話せねぇけど。怪我は…ねぇな。1人で戻れるか?」


クロムがそう聞くと「カー」と一鳴きした。


「なんて?」


「体力は減ってるが問題ないだと。…あ?この死体をもう少し調べたら戻る……あぁ、分かった」


クロムはそう言うと紙とペンを取り出して何かを書いてカラスの足にそのメモを結びつけた。それを確認したカラスはもう一度、鳴くと闇夜を飛んで行った。


「もう捕まるなよ」


そのカラスの後ろ姿にそう言った。


「今度はなんて?」


カラスの言葉が分からないロスは2人のやりとりが分からないので飛んで行ったカラスの後ろ姿を見ながら聞く。


「すぐ戻るのか聞かれたんだ。自分の方が先に戻るなら刹那に報告しとくから紙に書いて欲しいって言われてな」


そう言うとクロムは再度死体の方に目を向け、近くに寄って行った。「本当不思議だな。悪魔の俺だって分からねぇのに」と呟きながら後ろをついて行った。


「さて…。お前さっき吸血鬼って言ってたが致命傷になったのは胸の刺し傷っぽいぞ」


服が開いたお陰で死体の状態が見やすくなっていた。胸元に刺し傷があり、そこからの出血が大半だ。それが致命傷になっているのは安易に予想出来た。


「本当だ。これは心臓を一発でキメられてんな」


「俺の勝手なイメージかもしれないが吸血鬼ってただ吸血するだけじゃねぇのか?」


クロムがロスに聞くと「あーそっか。人間界ではそう言うイメージか」と顎に手を当てて答える言葉を探しているようだ。


「確かに吸血鬼はその名の通り吸血するんだけどそれはいわゆる食事…主食が血液ってだけなんだよな。もちろん大喰らいな奴は吸血行為で殺すこともあるけど基本的には死ぬほどのことじゃねぇんだよ。1回の食事で1人殺してたらいつか食糧難になるしな。だから相手を殺すなら俺らと変わらない。魔力が肉体強化にほぼ全振りされてる感じだ」


「腕力とかはそうだなー…個体によるがこっちの熊と変わらないからこんくらいかな」と近くに落ちていた石を拾って握り締める。手を開くとパラパラと粉々になった石が落ちていった。


「…なるほどな。馬鹿力とはいえ基本的には命はとらねぇ大人しい奴らなのか」


簡単に石を粉々にしたロスに対し(ならお前はゴリラかよ)と思いながら尋ねる。そんなクロムの考えはつゆ知らずロスは呑気に答える。


「いや〜そうでもないな。あいつら結構グルメでな。その吸血鬼の性格も大きく関わってくるが気に入らない味の人間だと容赦なく殺すぞ。「不味いもん食わせやがって!」ってな。こいつは不味かったのかもしれねぇな。…あの薬漬けのお香の匂いと成分が混ざってるだろうし。まぁでもだからって言って好みの味なのも危険だな」


「魔物は欲望に忠実なんだっけか。下手に美味いと今度は逆に吸い尽くされるのか」


「そゆこと」


「じゃあ麗弥は嗜好に合ってたとかか?」


「うーん…。可能性としては低いと思うぞ。確か麗弥って肉系の食べ物好きだったろ。肉食系はどうしても匂いがあるからな」


まるで食べ物の話しをしているかのような会話内容だ。外部の人間が聞いたら仲間の事を話しているとは思わない程、淡々と説明する。


「味とか匂いは魔物じゃねぇから知らんが…確かにカラスの話聞いてると人間がどうか分からんが女使って連れ出してるしな。明らかに"拉致"目的だったと見るのが妥当だな。今のところはってとこだが」


「そうだな。時間経つほど生存率は下がってくだろうな。それに大体食われるのは女の方が圧倒的に多いしな。女の方が体が小さいのもあるけど雑味が少なくて甘美な味わいらしいから……」と言いかけてじっとクロムの方を見た。


「……なんだよ」


きっとろくでもないことを思っているだろうロスに怪訝そうに尋ねる。


「あくまで大体ってだけで男も稀にいるっぽいからな。あいつらの嗜好に合う味の奴が。…特にお前みたいな中性的な奴」


「…言うと思ったが殺すぞ」


「いやこれはおちょくってんじゃなくてマジな話なんだって!」


蹴りを入れようとしているクロムを警戒しながら慌てて弁明し始める。しかしその顔には笑いが含まれているのが見え隠れしていた。


「……まぁ狩人にしてもただの気まぐれでやったにしろ何かあのバカ拉致った目的があるんだろうから見つけたら対峙する可能性が高いって事だな。お前魔物相手なら追ったり出来んじゃねぇのか?」


睨むのは継続したまま腕を組む。悪魔であるロスは気配を感じ取ることに長けている。どうしても人間の気配は大勢の人間が生活しているこの世界では紛れてしまうので特定の人物を探し出すのは困難であるが。しかし魔物となれば話は別だ。魔力が少ないとはいえ魔物の気配は独特だ。特にこの人間が主となっている世界では尚のこと珍しいことである。そう思っての質問であったがロスは首を左右に振った。


「うーん。確かにここに居たっていう形跡はあるんだけど…突然それが消えてるんだよな。恐らく"道"を使って移動してるんだろうな」


「道?」


「そっ。ここ(人間界)と魔界はあちこちに扉が存在するんだけど、その道を自由に作れる奴もいるんだ。道ってのは自分の為のものだから他者は干渉しづらいんだ。いくら俺でも目の前で消えられない限り追うのは無理だな」


「そうか。ならもうこの死体を調べる必要もないな。他の奴らが来る前に離れねぇと面倒だ。念の為さっき触ったところの指紋消しとけよ」



「そうだな。さっさと戻って刹那に状況説明しておこうぜ」


ロスはそう言うとパチンと指を鳴らした。見た目は何も変わっていないが消えているのだろう。2人はトンネルから出て公園内に戻った。あの死体はその内夜間のランニングをしている人間が見つけて通報するだろう。


「戻るか」


「だな」


そう言って戻ろうとした瞬間だった。


「ガキ!しつこいぞ!」


「!」


男の怒鳴り声が聞こえてきた。声のする方に顔を向けると8歳位の子どもが男の足に縋っていた。
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