Devil†Story
「嘘!?お姉ちゃんじゃないの!?」


本当に驚いているような表情でクロムを見る少年。彼が持っている純粋さが逆に煽っているような結果となりその状況にロスは笑い続けている。


「ギャハハハ!また間違えられてやんの!は…腹いて〜!」


「何処をどう見てそう思ったんだ!」


「だっ、だって髪長いし綺麗だなって思ったから…それにさっきの男の人も女って言ってたけど何も言わないからそうなのかなって…」


少年はもぞもぞと呟いた。子ども故、言われた言葉や視覚での情報で判断したのであろう。声にならない言葉と笑い声が混ざり合いカオスな空間が出来ていた。


「何処にこんな声の低い女がいるんだよ!髪は俺の勝手だろうが!」


クロムの声は同世代の少年達と大差ない。声だけ聞けば男だと判断つきそうなものだが、視覚からの情報がそれを覆していた。クロムは元々細身であり、中性的な顔付きなのでこのように女性に間違われることは少なくなかった。本人は頑として認めないがどうしても見た目や女性は髪が長いという先入観が先行しそのような誤解が生じることが多々あったのだ。


「昨日から腹捩れるって!あははは!」


「さっきから笑い過ぎだぞてめぇ…!」


いつまで大爆笑しているロスの目の前に行き睨みつけながら怒りをぶつける。それでも変わらず「ヒー…!」と過呼吸でも起こしているのではないかと錯覚する程の笑いを収める気がない様子にノーモーションで再び思い切り蹴りを入れた。今度はふくらはぎだった。


「いたっ!!次はローキックかよ!」


「クソ!すねは警戒してたのに!」とデジャブの様にふくらはぎを摩るロスに勢いよく言い返した。


「やかましいんだよクソ野郎が!しつけぇぞ!」


「ハァ〜?そんなに嫌ならムキムキにでもなれば〜?あぁ〜無理か!そんなガリガリくんじゃな!お前が勝手に間違われてるのに俺に当たるな!」


「てめぇこそさっきから何も学んでねぇんだな。その残念な頭をどうにかすれば?」


「ハァ〜?!」


少年がいるのにも関わらず2人は今日何度か目の喧嘩をし始めた。おろおろする少年をよそに段々とヒートアップする喧嘩。このままではいけないと少年は慌てて間に入った。


「ご、ごめんなさい!お姉ちゃんと間違えて!僕が悪いからもう喧嘩しないで」


少年はクロムの方に向かって頭を下げた。幼い子どもに喧嘩の仲裁に入られるというなんとも言えない状況に流石の2人もその場を収めた。


「ちっ…。分かればもういい」


「あらら〜気を遣わせちゃったな。ごめんごめん。大丈夫だよ〜。こいつとはいつもこんな感じだから」



ロスが笑いかけると少年は安心したように胸に手を当てた。


「そういえば名前言ってなかったね。僕は輝太(きいた)って言うんだ!お兄ちゃん達のお名前は!?」


突然の自己紹介に驚きつつもロスは「俺はロス」と簡単に名前を言った。輝太は「ロスお兄ちゃんだね!」と言った後にクロムの方を向いた。期待の眼差しに大きく溜め息をついた後「…クロムだ」とぶっきらぼうに名前を述べた。


「クロムお兄ちゃん!よろしくね!」


輝太はそうニコニコしながら言った。チラリと時計を見ると時刻は20時をまわっていた。


「随分遅い時間になってたな。危ないからそろそろ帰った方がいいよ」


ロスの提案に素直に頷いた輝太に対して思い出したかのようにロスは再びしゃがみ込んで人差し指を口に当てた。


「あっそれと。今日俺達に会ったことは秘密だよ」


「しー」と片目を瞑りながらそう言うロスに不思議そうに尋ねる。


「なんで?」


「ほら悪い奴らがいるから輝太が俺達にお願いしたの分かったら今度は輝太が連れて行かれるかもしれないだろ?皆危ない目にあっちゃうからな。だから俺等と輝太3人だけの秘密」


「分かった!僕誰にも言わないよ」


本当に素直に話を聞く輝太にロスは「偉い偉い」と優しく微笑んだ。


「じゃあ気をつけて帰るんだぞ」


「うん!ありがとう!またね!」


そう言って手を振りクロム達が入ってきた1番近くの公園の入り口に向かって走り出した時だった。後ろから誰かに腕を掴まれ止められた。


「わっ?!」


驚きの声をあげて後ろを振り向くとクロムが輝太の腕を掴んでいた。


「ビックリしたぁ…。クロムお兄ちゃんどうしたの?」


「……入り口まで送ってやる」


「「え?」」


輝太とロスは同時に驚いたように声をあげた。特にロスがクロムの行動に驚きを隠せなかった。普段のクロムなら放っておくだろう。しかしクロムは表情も変えずにじっと輝太の顔を見ていた。


「僕1人で行けるよーー「いいからこっちから帰れ」


輝太の言葉に被せるように反対側に向かって歩き出す。早く帰るのであれば明らかに先程輝太が向かった入口の方が近い。クロムが向かっているのはほぼ反対側と言っても過言ではなかった。寧ろ遠回りであった。しかし理由は分からなかったが何故かそうした方がいいと思った輝太は「ありがとう」と後ろを着いていった。そんなクロムの行動に頭上に?マークを浮かべながらもロスも後に続いた。
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