Devil†Story
暗い公園内を3人はゆっくりと歩いていた。クロムとロスだけなら歩いて5分くらいで着く距離であったが輝太の足に合わせていたのでどうしてもゆっくりになってしまう。ロスと輝太は楽しそうに話している。その会話を背中に受けながらクロムは少し先を歩いていた。


「……」


背中で揺れている髪を見る。クロムの髪はうなじ辺りで結ばれており、髪の先端は腰まできている。振り子のように揺れる髪の毛は思わず触りたくなる様な艶があった。不意にクロムを見ていた輝太が小走りで駆け寄りその髪の毛に触れた。


「クロムお兄ちゃんの髪やっぱり凄く長いね!」


「!」


クロムがさっと振り返る。それを見たロスは反射的に「まずい」と思った。クロムは潔癖症だ。髪に触れようものなら「触るな」とかなり嫌がる事は見慣れた光景だった。しかしその事を知らない輝太は髪の毛に触れるだけではおさまらず、クロムの右手に触れて手を握った。


「あ」


輝太のNG行動のオンパレードに思わず声をあげる。潔癖症ということで普段の任務時は革製の手袋をしていることが多かった。しかし今日は寝起きに刹那に頼まれた事と、様子を見に行くだけということで手袋をしていなかった。だからこそ先程の男に足技のみで攻撃していたのだ(半分は女と言われた腹いせ)。そんなクロムの素手を握るなんて御法度も良いところだ。おまけに輝太は申し訳ないがあまり綺麗な身なりをしていなかった。そんな輝太が触れていることにロスは焦りを感じていた。


「クロムお兄ちゃんもお話ししようよ!」


全くその事に気付いていない輝太はニコニコとクロムに笑顔を向ける。クロムは何も言わずに輝太を見ていた。


いやいやいや!色々まずいって!ワンチャン…クロムが輝太の状態に気付いてなきゃイケるか?…いや!めっちゃ見てるよな!あれは!輝太の状況に気づいちゃってるな!それなのに髪だけじゃなくて手まで握ったらそんな眩しい笑顔を向けたとしても怒鳴られるぞ!


じっと輝太を見て止まっているクロムの状態を確認したロスは「あー輝太!あのさーー」と止めに入ろうとした。流石に子ども相手にそんなことさせる訳にはいかないからだ。急がないといけないと慌てていたが。


「………さっさと行くぞ」


「へ?」


予想した反応とは全く違うクロムの反応に変な声が出る。チラリと手を握られているのを見たクロムだったが、そのまま歩き出したからだ。手を握り返す事はしていないこそ、振り払うこともせずにそのままにしている。


「うん!それで…なんで髪長いの?」


「…特に理由はない」


「長いと大変じゃない?」


「別に」


何事もないように歩き出して会話をしている2人の背中を唖然と見つめる。


え、えー…?うそーん。どういうことだ?何も言わねえなんて…ある?言っちゃ悪いけど輝太あんま綺麗じゃねぇよな?子どもだし当たり前だけどさ。てか他の奴があんなことしたら怒鳴られて殴られるよな?もしかして見えてないのか?…でもガッツリ見てたよな…。じゃあ実は触れてないとか?いやー…あれは触ってんな。え?なんで?


不可解なクロムの行動に「なんで?」「どうして?」と頭上の?マークが増え続ける。固まっているロスに気付いた輝太は後ろを振り返り「どうしたの?ロスお兄ちゃん!行こうよー!」叫んでいる。やはりその手はしっかりクロムの手を握っているがクロムは気にする素振りも見せていない。


「おっ、おー…。今行くー」


尚更分からない状況に「???」と困惑しつつロスも再び歩き出した。






「結局こっち側に来ちゃったね!」


20分後。結局反対側の入り口から出たのにも関わらずクロムとロスが入ってきた入り口までぐるりと公園の外周回ってきていた。理由は簡単だ。輝太の家がこちら側から行った方が早いと本人から聞かされたからだ。


「軽い散歩みたいになっちゃったな」


チラリとクロムを見るが遠回りさせた当の本人は全く違うところを見ていた。その手はいまだに一方的であるが輝太に握りしめられている。子どもなのできっと体温は高い。その事を考えると手汗をかいていても仕方ないと思うがやはり抵抗する様子は見受けられなかった。


「でも沢山お話し出来て楽しかった!ありがとう!」


そう言ってようやく手を離し、今度はロスの腰辺りに抱き付いた。


「いいえ〜。もうだいぶ遅くなっちゃったから気をつけて帰れよ〜」


「うん!またね!ロスお兄ちゃん!クロムお兄ちゃんもありがとう!」


手を振って挨拶をするロスの後にクロムにも挨拶をする。名前を呼ばれそちらを向いたクロムはポケットに手を入れながら輝太の目の前まで行った。


「…輝太。1つだけ言っておく。俺があのゴミに言ったことと、あいつがお前に言ったことはあながち間違えじゃねぇからな」


「!」


ピシャリと叱るような声に輝太の顔から笑顔が消えた。先程クロムが男に言って、輝太が言われたことは「相手を見るんだな」と言う言葉だった。先程の男は体格が良くて一見強そうであったがどう見てもDQN風の男でまともに相手にしてくれない事が分かる人物だった。そんな男に助けを求めたのは無謀であったことをクロムは言っているのだった。


「目の前で人が連れ去られて頭ん中がごちゃごちゃだったのかもしれんが、そういう異常な時程落ち着いて周りを見ろ。お前は自分が傷付いても構わないと思ったんだろうが状況判断が出来てないだけで強さじゃない。ただ危機管理能力がねぇだけだ。それはバカがすることだ」


クロムの言葉は厳しいものであった。普通の子どもなら泣いてもおかしくはない。それでも輝太は真剣な表情でクロムの言葉を聞いていた。


「同じ目に遭いたいのなら止めない。勝手にすればいい。ただお前がもし次に同じ事をしてたら俺は見捨てるぞ。俺はバカが嫌いだからな。何が正しいのかは少し先を見据えた上でお前が考えて決めろ。…いいな?」


紅黒い目と琥珀色の眼が合う。威圧的な言い方に周りに大人が居れば止めに入ったであろう。見捨てる様な言葉であるがその真意に気付いた輝太は強く頷いた。


「分かった。僕…きちんと考えてから行動するよ。少し間違えたとしても…慌てないように頑張る」


その眼差しを見ればか輝太がクロムの言葉をどれほど理解したのかは理解することが出来た。それを見たクロムは「それならいい」とコートのポケットから飴を取り出して輝太の目の前に出した。


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