Devil†Story
「えっ?」
思わずクロムを見ると無言で飴を差し出している。それを見た輝太は「ありがとう」と飴を受け取ろうとした。しかしヒョイっと飴は上に持ち上げられてしまった。
「…そういうところからだぞ。習っただろ。知らない奴から物を貰うなって」
「えっ。でっ、でもクロムお兄ちゃん達は知らない人じゃないよ?」
「ほぼ知らない奴だろ。お前と俺達と会ったのはさっきだ。助けてくれたからいい奴と思ってねえか?悪い奴は色んな罠を仕掛けてくるぞ。俺等がお前の味方って保証は何処にある。眼鏡の男と俺達が実はグルかもしれねぇぞ。菓子を渡すのなんて悪い奴の常套句だろ。この飴に毒を入れておいて油断したお前にこれ食わせて連れ去らないという証拠はないだろ」
「うっ…でも…」
言葉に詰まる輝太。少しの間を開けてからクロムは再度輝太の前に飴を差し出した。
「……そのくらい用心しろって事だ。少し関わったからっていい奴とは限らねえからな。簡単に信用するな」
再び目の前に出された飴を見て輝太は考えたが迷わず飴を掴んだ。
「でも!クロムお兄ちゃんもロスお兄ちゃんも絶対悪い人じゃないよ!ロスお兄ちゃんはたくさん僕のお話し聞いてくれたし、クロムお兄ちゃんもここまで僕を送ってくれたし注意してくれる優しいお兄ちゃん達だもん!」
そう言うかいなや包装されていた飴の袋をとって口に入れた。コロコロと口内で飴を転がしている。クロムは僅かに驚いたようで目を大きくさせた。
「ほら!やっぱり大丈夫だったでしょ。僕がお兄ちゃん達と会ったのは少しだけだけどそれでも分かるもん。僕は僕が感じた気持ちを信じてるよ」
真っ直ぐとその瞳を向けている輝太の目には一切の迷いがなかった。暫しの沈黙の後に大きな溜め息をついて「そうか」と呟いた。
そんな2人の様子をずっと黙ったまま見ていたロスだったがクロムの頭に手を乗っけた。
「全く意地悪なんだから〜。もっと優しく言えねぇのかね?ごめんなぁ?こいつ口が悪くて悪くて」
バシバシと繰り返し頭を叩きながら輝太に謝るロス。クロムは鬱陶しそうに「気安く触んな」と手を払った。
「ううん!僕へーきだよ!」
「そっか。じゃあ今度こそ帰りな。誰かさんの説教のせいで遅くなっちゃったけど大丈夫か?」
嫌味を言うロスをクロムはあからさまに無視をした。
「うん!大丈夫だよ」
輝太が元気に返事をした直後、クロムは再度ポケットに手を入れて入っていた全ての菓子を取り出して輝太の頭の上に置いた。輝太は慌てて手でキャッチした。
「クロムお兄ちゃん。これ…」
「やる。そん中に絆創膏があるからさっき切ったとこに貼っとけ」
「え?」
「怪我?」
肯定の言葉は述べずにクロムは自身の腰辺りを指差した。先程男に突き飛ばされて尻餅をついた際に枝でその場所を切ってしまっていたのだ。ヒリヒリしてはいたが普段から怪我をすることが多かったので気にしていなかったのだ。
「そういえば痛かった…。でもなんで分かったの?自分でも忘れてたのに…」
輝太の質問に「あのゴミの膝裏に蹴りを入れた時に触ってたろ。その時に指先に血がついてたのとズボンで拭いたところを見た」とサラッと答える。
「全然気付かなかった〜。貼らなくて大丈夫か?」
ロスの提案に両手を振って答える。
「慣れてるから大丈夫!ありがとう。じゃあ本当にそろそろ帰らないと。またね!ロスお兄ちゃん、クロムお兄ちゃん!」
何処か慌てたかのように手を振りながら走って帰る輝太を2人は見送った。輝太の姿が見えなくなった直後に公園内から悲鳴が聞こえてきた。
「おっ?ついに見つかったかな。あの死体」
入り口側からは見えないが死体があったトンネルの方向へ目をやる。
「そうだろうな。サツが来る前にずらかるぞ」
「あいよ〜。にしても…随分ガキには優しいんだな。ビックリした」
カフェの方に向かって歩きながらロスは「送ってやるとかさ。どういう風の吹き回し?」とニヤニヤしながらクロムに聞いた。
「あのな…。ガキにあの死体見せる気か?あのまま帰ってたらトンネル通るかもしれねぇだろ」
クロムは目を瞑りながら言った。何故クロムが遠回りさせた理由がこれで判明した。あの死体があったのは輝太と男が揉めていたすぐ側である。だからこそ2人は輝太を見つけることが出来ていた。そんなすぐ側を通れば死体を見る可能性は格段に上がってしまうからであった。
「あー確かに。死体を見たらトラウマもんだろうな」
「そこで騒がれたらそれこそ面倒だろ。だから遠回りしただけだ」
「なるほどなー。てか!それよりもお前髪の毛はともかく手袋してないのによく輝太に手を握られても平気だったな?!見ててヒヤヒヤしたぞ。それに最後の説教や絆創膏もさ!」
「なんでなんで?」とワクワクしたような表情でクロムに理由を問う。クロムは面倒くさそうにポケットに手を入れて答える。
「別に全部面倒だっただけだ」
「えー?!それだけでお前があそこまでやるー?」
「…髪や手は振り解いたら落ち込んで泣かれるのを避ける為、説教は麗弥みてぇに厄介ごとに首突っ込むのやめさせねぇとまた今日みたいになるかもしれねぇと思ったから、絆創膏は後で気付いて騒がれねえようにだ。あいつの為にやった訳じゃねえよ」
……なるほど。"真意"を答える気はないってか。目を合わせないクロムの姿を見てロスは密かに思った。本当に面倒というだけなら輝太の足に合わせてゆっくり歩く必要もねぇし、そもそも反対側の入口で別れれば良かったはずだ。返って面倒な事してるって自覚はねぇんだろうな〜。そう思ったロスはそれ以上追求することを諦めた。
「…ふーん。まぁそういう事にしとくよ」
「それを言うならお前だって優しかったじゃねぇか。目線合わせたり、絆創膏貼ってやるって言ったりよ。弱い生き物は嫌いとか言ってなかったか?」
クロムは問いかける。ロスは悪魔だ。悪魔が弱い…それも人間の子どもを好きになるとは思えなかった。
「えっ?別に子どもは嫌いじゃねぇよ?美味いし」
あぁ、やっぱりと思いながら「食い物としてかよ」と言った。
「それだけじゃねぇよ?子どもは扱いやすいだろ?…いつでも“こっち側”に引き込めるしな。誰かさんみたいに」
ニヤリと深みを持った言い方をする。それに対して「誰の事だろうな」と言ってから何かに気づいたように言葉を続けた。
「まさかお前…輝太を狙ってんのか?」
クロムの問いに片手を振りながら軽く答える。
「ないない。輝太は素直だけど堕ちてないし。…その健気さがいつか身を滅ぼす可能性は充分にあるけどな。その可愛い健気(おろか)さが引き金になってさ。俺達の事「優しくていい人達」って「信じてる」みたいだし?お前も残酷だよな〜。アレじゃ俺達の事をそう思っちゃうだろ。本当は輝太を突き飛ばした男よりも相当悪い事してる俺等の事をさ」
ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべて"深層心理"に突き付けるような言い方をするロス。クロムはロスを一瞥するもすぐに視線を前に戻した。
「…だから1回チャンスを与えただろ」
ぼそっと小さく呟いた。そのチャンスと言うのはクロムが一度差し出した飴をすぐに引っ込めて「簡単に信用するな」と言った時の事を指していた。あの言葉は自分達の事を言っていたのであった。
「アレをチャンスと言っていいもんかね。可哀想に」
少し遠くからサイレンの音がし始めた。先程の死体の発見者が通報したのだろう。
「……無駄話はそこまでにするんだな。情報も手に入ったしさっさと戻るぞ」
段々と近づいてくるサイレンを背中に受けながらスッと走り出したクロムに「はいはい」とロスも後ろをついてカフェに戻って行った。
思わずクロムを見ると無言で飴を差し出している。それを見た輝太は「ありがとう」と飴を受け取ろうとした。しかしヒョイっと飴は上に持ち上げられてしまった。
「…そういうところからだぞ。習っただろ。知らない奴から物を貰うなって」
「えっ。でっ、でもクロムお兄ちゃん達は知らない人じゃないよ?」
「ほぼ知らない奴だろ。お前と俺達と会ったのはさっきだ。助けてくれたからいい奴と思ってねえか?悪い奴は色んな罠を仕掛けてくるぞ。俺等がお前の味方って保証は何処にある。眼鏡の男と俺達が実はグルかもしれねぇぞ。菓子を渡すのなんて悪い奴の常套句だろ。この飴に毒を入れておいて油断したお前にこれ食わせて連れ去らないという証拠はないだろ」
「うっ…でも…」
言葉に詰まる輝太。少しの間を開けてからクロムは再度輝太の前に飴を差し出した。
「……そのくらい用心しろって事だ。少し関わったからっていい奴とは限らねえからな。簡単に信用するな」
再び目の前に出された飴を見て輝太は考えたが迷わず飴を掴んだ。
「でも!クロムお兄ちゃんもロスお兄ちゃんも絶対悪い人じゃないよ!ロスお兄ちゃんはたくさん僕のお話し聞いてくれたし、クロムお兄ちゃんもここまで僕を送ってくれたし注意してくれる優しいお兄ちゃん達だもん!」
そう言うかいなや包装されていた飴の袋をとって口に入れた。コロコロと口内で飴を転がしている。クロムは僅かに驚いたようで目を大きくさせた。
「ほら!やっぱり大丈夫だったでしょ。僕がお兄ちゃん達と会ったのは少しだけだけどそれでも分かるもん。僕は僕が感じた気持ちを信じてるよ」
真っ直ぐとその瞳を向けている輝太の目には一切の迷いがなかった。暫しの沈黙の後に大きな溜め息をついて「そうか」と呟いた。
そんな2人の様子をずっと黙ったまま見ていたロスだったがクロムの頭に手を乗っけた。
「全く意地悪なんだから〜。もっと優しく言えねぇのかね?ごめんなぁ?こいつ口が悪くて悪くて」
バシバシと繰り返し頭を叩きながら輝太に謝るロス。クロムは鬱陶しそうに「気安く触んな」と手を払った。
「ううん!僕へーきだよ!」
「そっか。じゃあ今度こそ帰りな。誰かさんの説教のせいで遅くなっちゃったけど大丈夫か?」
嫌味を言うロスをクロムはあからさまに無視をした。
「うん!大丈夫だよ」
輝太が元気に返事をした直後、クロムは再度ポケットに手を入れて入っていた全ての菓子を取り出して輝太の頭の上に置いた。輝太は慌てて手でキャッチした。
「クロムお兄ちゃん。これ…」
「やる。そん中に絆創膏があるからさっき切ったとこに貼っとけ」
「え?」
「怪我?」
肯定の言葉は述べずにクロムは自身の腰辺りを指差した。先程男に突き飛ばされて尻餅をついた際に枝でその場所を切ってしまっていたのだ。ヒリヒリしてはいたが普段から怪我をすることが多かったので気にしていなかったのだ。
「そういえば痛かった…。でもなんで分かったの?自分でも忘れてたのに…」
輝太の質問に「あのゴミの膝裏に蹴りを入れた時に触ってたろ。その時に指先に血がついてたのとズボンで拭いたところを見た」とサラッと答える。
「全然気付かなかった〜。貼らなくて大丈夫か?」
ロスの提案に両手を振って答える。
「慣れてるから大丈夫!ありがとう。じゃあ本当にそろそろ帰らないと。またね!ロスお兄ちゃん、クロムお兄ちゃん!」
何処か慌てたかのように手を振りながら走って帰る輝太を2人は見送った。輝太の姿が見えなくなった直後に公園内から悲鳴が聞こえてきた。
「おっ?ついに見つかったかな。あの死体」
入り口側からは見えないが死体があったトンネルの方向へ目をやる。
「そうだろうな。サツが来る前にずらかるぞ」
「あいよ〜。にしても…随分ガキには優しいんだな。ビックリした」
カフェの方に向かって歩きながらロスは「送ってやるとかさ。どういう風の吹き回し?」とニヤニヤしながらクロムに聞いた。
「あのな…。ガキにあの死体見せる気か?あのまま帰ってたらトンネル通るかもしれねぇだろ」
クロムは目を瞑りながら言った。何故クロムが遠回りさせた理由がこれで判明した。あの死体があったのは輝太と男が揉めていたすぐ側である。だからこそ2人は輝太を見つけることが出来ていた。そんなすぐ側を通れば死体を見る可能性は格段に上がってしまうからであった。
「あー確かに。死体を見たらトラウマもんだろうな」
「そこで騒がれたらそれこそ面倒だろ。だから遠回りしただけだ」
「なるほどなー。てか!それよりもお前髪の毛はともかく手袋してないのによく輝太に手を握られても平気だったな?!見ててヒヤヒヤしたぞ。それに最後の説教や絆創膏もさ!」
「なんでなんで?」とワクワクしたような表情でクロムに理由を問う。クロムは面倒くさそうにポケットに手を入れて答える。
「別に全部面倒だっただけだ」
「えー?!それだけでお前があそこまでやるー?」
「…髪や手は振り解いたら落ち込んで泣かれるのを避ける為、説教は麗弥みてぇに厄介ごとに首突っ込むのやめさせねぇとまた今日みたいになるかもしれねぇと思ったから、絆創膏は後で気付いて騒がれねえようにだ。あいつの為にやった訳じゃねえよ」
……なるほど。"真意"を答える気はないってか。目を合わせないクロムの姿を見てロスは密かに思った。本当に面倒というだけなら輝太の足に合わせてゆっくり歩く必要もねぇし、そもそも反対側の入口で別れれば良かったはずだ。返って面倒な事してるって自覚はねぇんだろうな〜。そう思ったロスはそれ以上追求することを諦めた。
「…ふーん。まぁそういう事にしとくよ」
「それを言うならお前だって優しかったじゃねぇか。目線合わせたり、絆創膏貼ってやるって言ったりよ。弱い生き物は嫌いとか言ってなかったか?」
クロムは問いかける。ロスは悪魔だ。悪魔が弱い…それも人間の子どもを好きになるとは思えなかった。
「えっ?別に子どもは嫌いじゃねぇよ?美味いし」
あぁ、やっぱりと思いながら「食い物としてかよ」と言った。
「それだけじゃねぇよ?子どもは扱いやすいだろ?…いつでも“こっち側”に引き込めるしな。誰かさんみたいに」
ニヤリと深みを持った言い方をする。それに対して「誰の事だろうな」と言ってから何かに気づいたように言葉を続けた。
「まさかお前…輝太を狙ってんのか?」
クロムの問いに片手を振りながら軽く答える。
「ないない。輝太は素直だけど堕ちてないし。…その健気さがいつか身を滅ぼす可能性は充分にあるけどな。その可愛い健気(おろか)さが引き金になってさ。俺達の事「優しくていい人達」って「信じてる」みたいだし?お前も残酷だよな〜。アレじゃ俺達の事をそう思っちゃうだろ。本当は輝太を突き飛ばした男よりも相当悪い事してる俺等の事をさ」
ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべて"深層心理"に突き付けるような言い方をするロス。クロムはロスを一瞥するもすぐに視線を前に戻した。
「…だから1回チャンスを与えただろ」
ぼそっと小さく呟いた。そのチャンスと言うのはクロムが一度差し出した飴をすぐに引っ込めて「簡単に信用するな」と言った時の事を指していた。あの言葉は自分達の事を言っていたのであった。
「アレをチャンスと言っていいもんかね。可哀想に」
少し遠くからサイレンの音がし始めた。先程の死体の発見者が通報したのだろう。
「……無駄話はそこまでにするんだな。情報も手に入ったしさっさと戻るぞ」
段々と近づいてくるサイレンを背中に受けながらスッと走り出したクロムに「はいはい」とロスも後ろをついてカフェに戻って行った。