Devil†Story
それから数十分が経った頃だった。


「…ん?クロム。ちょっといいか?」


先程からずっと黙っていたロスが名前を呼んでくる。


「なんだ?」


飴の棒をいじりながら俺は返事をする。あれ以降クローがまだ戻ってきておらず、そこに待機していた。戻ってくるまでは暇だったのでポケットに入っていた飴を舐めていた。


「さっきの奴の気配だが…通った道筋は見つけたぞ」


「擬態して分からなくなったんじゃねぇのか?」


「折角擬態したのにその場に居続ける意味がねぇからな。徐々に移動したんだろうな。大抵のやつならそれで誤魔化せるからな。俺には通用しねぇけど」


じっと同じ方向を向いていると思ったらきちんと仕事をしていたようだ。


「方向は?」


「こっからちょっと北東の方に行ったみたいだ。途中からは消えてるがな」


スッと俺はロスが指差す方を見た。そっちの方角は工業地帯で工場が並ぶエリアだった。また廃墟も多く悪い事をするには都合が良いエリアだった。


「なるほどな。途中から消えたってどういう事だよ?」


「まぁ途中から道に入ったんだろうな。前にも言ったが道に入られると流石に俺でも分からん。さっきので警戒はされてるだろうからな」


やはり先程の殺気のせいで警戒されてしまっているようだ。仮に俺だけなら気配を消す必要はないだろうからな。


「なら今日はもう張り込みしてても無駄かもな。稀琉の奴はまだ終わんねぇのか」


俺がそう呟くのと同時にクローが空から舞い降りてきた。


「おぉ。やっと戻ってきたか」


「随分遅かったな」


俺はクローを腕に止まらせて、足についていた手紙をとった。どうやら稀琉が書いたものらしい。稀琉の筆跡はかなり綺麗な物だ。一目で分かる程いつも丁寧に書かれている。だが肝心なのは中身だ。俺は手紙を読む。


「稀琉なんだって?」


「大体聞き込みは終わっただと。戻って刹那と俺等にも報告もしたいらしいんだがちょっと困ったことになったから可能なら電話くれないかって書かれてるな」


"電話"というワードに「ゲ」と変な声を出す。合わせるようにクローが「カーカー」と鳴く。クローが稀琉の状況を簡単に説明してきた。


「…なるほどな。さっきのお前の殺気で稀琉のカラスが動けなくなっちまったんだと。クローが励ましてたらしいんだがかなりビビっちまったらしくて、抱いて連れてこうとしても抵抗してて稀琉も身動き取れなくなってるらしい」


「だから戻ってくんの遅くなったんだな。手紙もなんでお前が運んでるのかと思ったよ」とクローの首元を撫でながら俺は納得し、ポケットから再度携帯を出して電源をつけた。


「えー!結局携帯使うのかよ〜!」


「それこそ仕方ないだろ。お前のせいなんだから我慢しろよ。さっさと戻りたいしな。嫌ならあっち行ってろ」


俺は騒ぐロスを野良犬を追い払うように手で払う。俺が言うや否やすぐにその場から離れて行った。その素早さにある意味感心する。チラッとロスを見ると数十m離れた場所で手で丸を作っていた。もう電話してもいいという合図のつもりだろう。…腹立つ動きだな。俺は舌打ちをしてから発信ボタンを押した。
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