Devil†Story
「今更何を言ってるんだ?前からだろ。それより稀琉。さっさと報告しろよ」


変わらずクローを撫でながら俺は報告を急かした。このままダラダラと話していたら長くなると感じたからだ。案の定、刹那は「あっ、そうだった。稀琉どうだった?」と目的を忘れていたようだった。同時に治療が終わった太陽を稀琉に引き渡す。


「そうだよね!色々分かったよ」


「ありがとう。おいで太陽」と太陽を腕に止まらせてから報告し始めた。


「色んな人と世間話しながら探ってみたんだけどさ、あったよ。首に蜘蛛のタトゥー入ってる女性の噂」


ジャケットのポケットからメモ用紙を取り出して確認し始める。メモ用紙にはびっしりとメモが書かれている。


「多分夜のお仕事してる人らしくて、よく男性と歩いてるみたい」


「なるほど。水商売を生業にしてるのか」


「うん。その手の店が立ち並ぶ通りに行ってみたんだけどお店の前に写真あったよ。凄く綺麗な人で首に蜘蛛のタトゥー入ってた」


携帯で写真を撮ってきたらしく携帯の画面をこちらに向ける。営業用の写真だから加工はされているだろうが確かに顔が整った女が写っていた。ロスはかろうじて画面を見ているが嫌そうな(電波に対して)顔をしていた。


「本当だー。綺麗な女だな」


「…ロス。本当にそう思ってる?」


ロスの表情を見た稀琉は疑うような眼差しを向けた。表情だけ見ればそう思われなくても仕方ない。


「思ってる思ってる」


「えー?本当に?」


棒読みのロスに疑いの目を向ける稀琉。昨日の俺のノックの時のようなやりとりが目の前で繰り広げられた。


「…ロスの表情は置いといて。確かに綺麗な女性だね。……まぁ麗弥ならコロっとやられちゃうだろうね〜」


遠い目をした刹那が乾いた笑みを浮かべた。その発言にその場の全員が納得する。麗弥には歳の離れた姉が居て、とても大切にしていた。その為か分からないが女性に対してはかなり弱かった。任務でも女性に手を掛けるものは絶対にしない。女好きとは違うのだが、とにかく点で女性関係ではダメになってしまう。そんな麗弥がこの女と直接出会えば…コロっと騙されるのは想像に容易い。…本当にあの馬鹿。メリハリをつけろっての。


「チッ。…で?その女の噂ってなんだ?あの馬鹿はともかく、そんな仕事してる女が男と歩いてる事事態はなんも不審な点がねぇだろ」


麗弥のバカさ加減に舌打ちをしつつ稀琉に話の真意を問い掛ける。


「クロムの言う通りただ歩いているだけなら問題はないよね。珍しいかもしれないけど首にタトゥーを入れた他人の可能性もある。でも…その中にきな臭い噂がちらほらあったんだ」


さっきまでの呆れ顔から一変、帽子を深く被り直した稀琉は真剣な表情で話を続ける。


「たまにこの人が工業地帯にお客さんか分からないけど男の人を連れて行く事があるみたいなんだけど…連れて行かれた人達は戻ってきてないみたい。恐らくだけど、その女性がどうとかじゃなくてマフィアとかヤクザに"売りに"行ってるんじゃないかって」


稀琉の言葉に緊張感が漂った。なるほどな。女が殺したりするんじゃなくて相手と取引してるって事か。それなら裏の奴等が相手だから闇の取引がされている可能性がある。相手を人間だと思っている稀琉なら妥当な判断だ。


「にゃるほどねー。その護衛が黒眼鏡って事なら辻褄合うもんな。黒眼鏡の方は情報ないんだろ?」


「うん。全くなかったよ。油断してたとはいえ麗弥を気絶させて拉致する位だから中々の手練れなんじゃないかな。それに、さっきクロムにはチラッと言ったけど聞き込みしてる時に近くで誰かオレの事を見てる気配がしたから、多分オレも目をつけられたと思う」


「帰り道とか大丈夫だったの?」


「多分大丈夫だよ。なんか聞き込み途中で物凄く寒気した時あって鳥とか動物が一斉に逃げ出した時があったんだけど、そこから気配消えたから」


「クロムも感じたんだよね?」と何も知らない稀琉は俺の方を向いた。稀琉以外はその寒気の正体を知っているので全員が明後日の方向を見ている。


「…あぁ。あったな。そんな事」


「ビックリしたよね〜。それで太陽もだけど周りに居た大人もパニックになって…陰から出てきた人に襲われたんだよね」


「え!?」


突然の襲撃されたという発言に刹那は驚愕の表情を浮かべた。


「襲われたの!?」


「うん。俺をつけてた人をつけてたらしくて、何故かオレに攻撃してきてさ。それにもビックリしちゃった」


「怪我とかないよね?」


「ないよ〜!ガバガバだったから咄嗟に避けて"ちょっとだけ"強く叩いたけど」


そう言って笑う稀琉の上着には少量だったが血が付着していた。こう見えて稀琉は敵に情けをかけることがあまりない。本人はちょっとだけと思っている力でも急所に当たれば大人を一撃で気絶させる事は容易かった。


「でも丁度良かったよ!その人達を裏に連れて行って話聞いたらさっきの情報教えてくれたから」


笑顔でそう述べる稀琉に刹那は青ざめている。稀琉の言葉の意味を理解したからだ。言葉では優しく聞いてるだろうがきっと脅迫と変わらない事をしたのだろう。じゃなければ返り血が上着に付着することはない。
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