Devil†Story
俺はコートのファスナーを上げてドアを開けた。そこには稀琉の後ろ姿があり、扉が開ける音がして振り返る稀琉は驚いた表情を浮かべていた。


「起きてたんだね。おはよう!珍しいね。クロムがこの時間に起きてるなんて」


「しかも、バッチリ着替えてるし」と笑う稀琉。


「あぁ…たまたま目が覚めてな。ところでどうした?」


「実はカラス小屋が凄い騒がしくて…。段々と酷くなってきてるから、ダメ元でクロムのところに来てみたんだ」


「カラスが?」


俺が聞くと遠慮がちに頷いた。カラスの言葉が分かる俺に尋ねようと思ったが、俺はどういうわけか普通の奴より睡眠が必要な体質でそれは周知の事実だ。だからこそ、睡眠を邪魔したのではないかと稀琉は気を使ったのだと思う。稀琉は人よりそういう事に敏感だから尚更。今日は本当に目が覚めてしまったので別に気にする事でもないと俺は軽く答えた。


「分かった。行ってやる」


「あ、ありがとう」


「今日は良いが、もし俺の睡眠の邪魔しやがったら殺すぞ」


「分かってるよー!」


ホッとした様子で俺の手を引く稀琉。朝から触るなと手を払ったのだが、それでも何故か嬉しそうな顔をしていた。カラス小屋へ向かって歩いていると、唐突に稀琉が口を開いた。


「それにしても…やっぱりクロムの髪って長いねー」


「綺麗だし」と稀琉が俺の髪に触った。


「!」


一昨日の輝太の様に間髪入れずに俺の髪に触ってくるが振り払うのをやめた。…そうか。こいつの行動に振り回されがちなのは、行動が輝太と同じ行動を取ってくるからか。ガキ相手に本気になるつもりはない。昨日から稀琉に振り回され、それをいやいやながらも受け入れているのが謎だったが漸く理由が分かった。こいつの言動や行動がまんまガキだからか。


何かを察した稀琉は「…ねぇ。なんか酷い事考えてない?」と俺の髪を触りながら聞いてきた。


「…別に。それより手を洗ってから触ってんだろうな」


「もちろん!この間きちんと教えて貰ったからね!クロムと会う時はきちんと手を洗って指輪とか手袋も消毒してから行くよ!」


ドヤ顔を手を見せてくる。きっと何も間違えなく俺に承諾を得られると思っているのだろう。その思い込みが無性に腹が立った。


「……手の洗い方は?」


「え?」


「手の洗い方の手順を聞いてるんだ」


「えーっと…石鹸つけて手のひらと甲を擦って流すかな?」


思い出すように顎を触って上を見て答える稀琉。やっぱりな。つめが甘いんだよ。
 

「…じゃあ触んな」


「えー!なんで?!」


「…手の洗い方を教わらなかったのか?手のひらと指の間、親指、爪の間、手首を2回洗って30秒以上流さねぇと洗った内に入らねぇよ。消毒すりゃいいと思ってんだろ?指輪も外して洗っーー「待って!…待って?そこまでしないとダメなの!?」


俺の言葉に被せるように驚いた稀琉が叫ぶ。…朝からうるせぇっての。冗談に決まってんだろ。


「嘘だ」


「えー!!嘘なの!?」


「正確には嘘じゃねぇが手を洗ってりゃ別にいい」


「良かった〜…もう!やめてよね!それよりも髪!今日は結ばないの?」


プンプンと怒りながら髪の毛を持ち上げた。そういえば髪を結ぶのを忘れていた。


「あぁ。忘れてただけだ」


「そっか。じゃあレアなクロム見れたなー。ところでなんで伸ばしてるの?」


稀琉が無垢な笑顔を向けてくる。思えばここに来て7年…。来た時は肩にもつかないくらいだった髪も今は腰あたりまである。伸ばしてる理由はあると言えばあるが他人に言うような事じゃない。
あれだけ「女」と言われてもクロムは髪の毛を切る事はなかった。彼なりの理由があるがそれを知っているのは本人だけだ。


「特に理由はないな。髪が長い方が寒くねぇし」


いつものように1つにまとめて髪を結んだクロムは適当な理由を答えた。
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