Devil†Story
「この辺りだったか…」


俺と稀琉はさっき殺気を微かに感じた場所周辺に行った。だが、そこに殺気を放つ者はもう既にいなかった。…そう長く居るわけねぇか。


「流石にずっと同じ場所にはいないよね」


稀琉の声を聞いて俺は何気なく右手を見た。そこには丁寧に包帯が巻かれている。包帯を巻いた奴の性格が表れているようだ。結局、刹那に報告してる時に稀琉が手当てした。あの後、いくら言っても「小さな傷でも甘く見ちゃダメだよ!」と言ってきたからもう諦めた。そのまま手を差し出すと稀琉は安心したかのように「全く…でも、良かった。すぐ終わるから待ってて!」とにこやかに手当てをした。本当に…妙に傷に対してと言うか人に対して想いがあると言うか…うるせぇ奴だ。俺は溜め息をつきながらその辺りを見渡した。


「…とりあえずその辺見て回るか」


「うん。二手に分かれる?」


「そうだな。その方が手取り早い」


「何かあったら携帯で連絡しようね。って今更だけど…本当に大丈夫?太陽が怪我して連れて行けないから携帯でも良いって言ってたけど…」


稀琉は俺が携帯嫌いだと思っている。言おうとする度にあいつ(ロス)が邪魔をしてくるからだ。しかしあいつは今居ない。この際ハッキリ言ってやろう。


「いや俺じゃなくて携帯嫌いなのはロスなんだ。だから俺は人並みには使えるぞ」


「そうだったの?!知らなかった。なんでロスは携帯嫌いなの?」


「さぁ…あいつは機械音痴だからな」


適当な理由を並べる。機械音痴なら別にあいつのプライドに触る事もねぇだろ。


「それならクロムが使えば問題ない気がするんだけど…2人は殆ど同じ任務だし」


「近くにあるだけで嫌なんだと。思考がじーさんみたいなもんだから深く考えんな」


「じーさんって…」


「おら。いつまで無駄話してると、あの馬鹿の生存率が下がるぞ」


このままだとまた、稀琉の質問責めになると思った俺は、あの馬鹿を使って会話を切り上げる。あながち嘘では無い。今日であの馬鹿が失踪して3日目になる。今日で決めないと生存率がかなり下がるだろう。ついでに俺はイライラが高まる。


「あっ、そうだね。…もし麗弥を攫った人達と出会したら"処分"して良いって刹那言ってたよね」


処分=殺して良いという事だ。BCのルールで依頼や刹那の命令がない場合は殺害をしてはいけなかった。破るとそれなりに罰があるのだが、俺とロスだけは特例で基本的には刹那が命令を出した任務の対象者は殺しても構わない事となっていた。もちろん稀琉はそんな事は知らないので話を合わせる。


「そうだな。狩人だった場合やっとかねぇと面倒だしな。そもそも俺はお前と違って情けをかけるつもりはねぇし」



「また怖い事言って…。とりあえずオレは工場が並ぶこっちから見てみるから、クロムは廃倉庫側から見てくれる?」


俺が言われた方は廃墟が多く並ぶ通りだった。対して稀琉が行くと言った方は人通りが比較的多い場所だった。…なるほどな。俺は稀琉が何故そのように言ったのかを理解した。


「…稀琉。さてはお前こっちの方が不気味でこえーから俺に行かせようとしてるな?」


ギクッとした表情を浮かべる稀琉。どうやら図星のようだ。稀琉はホラー系が苦手で、特に心霊関係の物はてんでダメだった。以前に見たホラー映画も始まった瞬間(タイトル画面とBGMしか流れてなかったんだが)叫び出してうるさくて敵わなかった。暫くはトイレも刹那に一緒に行ってもらったと言うから呆れてしまう。


「だっ…だって!怖いんだもん!クロムはそういうの平気でしょ!?オレお化けとか無理なんだもん!」


「お前な…。普段から死体とか見てんだから平気だろ」


「全然違うよ!だってお化けは倒せないもん!」


何が違うのか。ホラーには死体がつきものだし、スプラッターな表現がされる事も珍しくはない。普段してる事と何が違うんだか…。


「倒せる倒せないの判断って物理的な話しをしてんのか」


「そうだよ!お化けは触れないし自分でどうにか出来ないから怖いんだよ!」


…確かにこいつ海外のスプラッター映画はあんま怖がってなかったな。その間にも「お化けは急に出てくるし!(パニックホラー系も急に出てくるのにな)」や「覗いてるだけとか何されるか分からないのが怖い!(それを言ったら動物も変わらないだろ)」とか喚いていた。あまりの必死さに加虐心が芽生えた俺は少し前にあの馬鹿から聞いた怪談話をしてやった。


「…知ってたか?この辺、女の幽霊が出るらしいぞ」


「わー!やめてよ!」


「昔恋人に振られた女がこの辺りで自殺したらしくてな。夕方以降に男がこの辺りに近付くと引き寄せられるような感覚に陥ってどんどん廃墟の中に連れて行かれるんだと」


「ねぇ…!本当に怖いって!もうやめてよ!」


顔面蒼白で俺の腕にしがみついて悲願する稀琉を無視して俺はそのまま話を続ける。


「廃墟に連れてかれた男は二度と帰ってこねぇらしい。振られた女の怨念がこの辺に居る男に取り憑いて殺ーー「やめてってば!!またトイレに行けなくなったらクロムついてきてくれるの!?今からだって1人で任務出来なくなるからー!!」


俺の声に被せるように稀琉は大声で話を遮ってきた。相変わらずうるせぇ奴だ。でけぇ声でよくそんな恥ずかしい事言えるよな。こいつには羞恥心がねえのか。しかし俺はただ怪談話をしたかった訳じゃない。呆れつつ俺は話の続きをし始める。


「冗談はさておき。怪談話には大体その噂を裏付ける真実がある」


「冗談…?冗談で片付けられる話じゃないんだけど…ってどういう事?」


まだ恐怖心が残っているのか涙目で俺を見てくる稀琉に分かるように説明をする。


「あの馬鹿を攫った女は裏で人身売買してる女だろ?お前の聞いた噂が真実だとすれば、麗弥を除いた他の奴らはこの辺りで拉致られたって事だ」


「???」


まだよく分かってない稀琉に溜め息をつきながら俺は話を続けた。


「…その事実を言葉にしてやろうか?「女が男に色目使って廃墟に誘き寄せて拉致る。そいつらは人身売買で売られちまってて帰ってこない」それとさっきの怪談話。似てるだろ?」


「あっ…」


ようやく意味を理解した稀琉は急に明るい表情に変わった。


「なーんだ!お化けの仕業じゃなくて人の仕業って事か!なら怖くないよ!良かったー!」


相手が人か、人だったものかでこうも変わるのかと感心しつつ「…まあ。その他の場所には本物が紛れてたりするんだけどな」と呟く。


「もう良いって!とにかく!こっちはオレが聞き込みしながら、見回るからそっちはよろしくね!クロム聞き込み嫌いでしょ?何かあったら電話するから!」


「じゃあ気をつけてねー!」とこれ以上怪談話を聞きたくない稀琉は半ば強引に逃げるように工場地帯に向かって歩き出した。


「………気をつけんのはお前だろ」


足早に工場地帯へ向かう稀琉の後ろ姿を見て溜め息をつきながら俺も廃墟地帯に向かって歩き出した。
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