Devil†Story
(うー……クロム早く来ないかなぁ…)


物陰に身を潜めた稀琉は震えながら窓の方を見ていた。窓辺に立つ女性は後ろを向いており、ゆらゆらと揺れていて非常に不気味だった。


(今お昼なのに…怖すぎるよ…。うぅ…大体クロムが変なこと言うから……。しかも電話も繋いでてくれないし…意地悪…)


珍しく稀琉がクロムに対しての不満を募らせていた時だった。


(ーー?なんか…動きが止まった…?)


窓辺に立っていた女性の動きが止まった。何かと思い目を細めて様子を見る。


「えっ……」


女性の頭がゆっくり動き出していた。それは徐々にこちらに顔を向けているようだった。



(待って…?)


あまりの恐怖に歯が鳴り出すが、金縛りにあったかのように稀琉は動けなかった。その間にもぎこちない動きで首はどんどん動いている。


(待って待って待って…!!)


目が離せない状況の中、女性の顔が振り返った。


「ーーッ!!!!」


女性の顔が見える直前、金縛りが解けたかのように動けるようになり再度物陰に隠れた。恐怖で叫ばないように両手で口を押さえながら必死に呼吸を整える。



(何あれ何あれ何あれ…!!やっぱりお化け…!?怖過ぎるんだけど…!こんな昼間から出るお化けなんてヤバいに決まってるよ…!)


ー「振られた女の怨念がこの辺に居る男に取り憑いて殺すんだってよ」ー


クロムがした怪談話を思い出す。


(でっでも!アレは今回の事件の噂に尾鰭がついて出来た怪談だったよね…?)


ー「…まあ。その他の場所には本物が紛れてたりするんだけどな」ー


(…!!)


心臓の鼓動が早鐘のように鳴り響いている。このままクロムを待っていようと思ったが、ふと麗弥の顔が浮かんできた。


(そ、そうだ…。これ以上時間が経ったら麗弥が危ないんだ……。たっ…確かめないと…)



グッと拳に力を入れて大きく深呼吸を何度かする。意を決して稀琉が廃工場の方を見た瞬間であった。


「…おい」


「ヒッ…!うわぁぁーーームグッ!?」


突然声を掛けられ反射的に叫んだ稀琉の口を誰かが覆った。突然口を覆われた稀琉はパニックになって抵抗する。


「おい!叫ぶんじゃねぇよ」


「んんー!?んぅ…!!」


「落ち着けーーグッ」


暴れる稀琉の肘が誰かの体に当たりその人物が呻いた。


「この…!いい加減にしろ!!」


ゴンッ!と頭を殴られて我に返る。痛む頭を押さえながら後ろを振り返るとそこに居たのはクロムだった。右手の拳が握られているところを見るとグーで頭を殴られたらしい。


「んんんぅ…!?」


「この野郎。落ち着けっての!」


フードを被っていたがそこに居たのが友人である事に安堵した稀琉は体の力を抜いた。それを見届けたクロムは「叫ぶなよ」と念押しをしてから口を覆っていた手を外した。


「プハッ!クッ…クロム〜!脅かさないでよ…!来るの遅いぃ…!!」


「うるせぇな。来てやっただけありがたく思え。それよりてめぇ俺に言う事があんだろうが!いってぇな!」


先程暴れた際に肘打ちが、もろに当たった脇腹を摩りながら稀琉を睨みつけた。


「ごめんなさい…。でも…!お化け居たんだもん…!」


「でもじゃねえよ!馬鹿力で殴りやがって。こんな真昼間から出てくるかっての!」


「手袋にも涎つけやがって!」と先程稀琉の口を押さえていた手袋をとって地面に捨て、新しい手袋をつける。必死に抵抗していた為、口を開けた際に僅かに付着してしまった様だ。


「色々ごめんだけど…!本当に居たんだよ…!ほらあそこ…!!」


稀琉は涙目になりながら自分は見ないようにしつつ、2階の工場の窓際を指差すとクロムは躊躇なく窓際へ顔を向けた。


「…あぁ。確かにいんな」


何処か他人事の様なクロムに対して、稀琉は手で目を覆いながら言葉を紡いだ。


「でしょ…!こっち向いてるでしょ!?お化けだよ!」


「いやあれは……人間だな。ワイヤーかなんかで吊るされてんじゃねぇのか?」


「え!?」


クロムの言葉に稀琉もようやく窓際を見る。そこには巻き下ろしのピンクブラウンの髪に、白に近い水色の花柄のキャバドレスを着た女性が居た。恐らく水商売をしている女性だろう。両手が上に上がっており、よく見ると日光に反射して女性の手首が光っていた。クロムが言うようにワイヤーか何かで拘束されているようだ。


(あっ、アレ…?)


稀琉は目を擦って再度女性を見るが変わらなかった。


「え!?さっきオレが見た人と違うよ!だって白いワンピースだったし黒髪のロングで立ってたよ!?」


「室内が暗いから見間違えたんじゃねぇの?ったく…任務に集中しねぇからそんな勘違いすんだよ。気を引き締めとけボケが」


「さっさと中の様子見に行くぞ」と先を進むクロムの後ろを慌てて追いかける。


「えー…?オレの見間違え…?」


まだ納得しきれていない稀琉だったがどんどん先に進むクロムに「待ってよー!クロムー!」と声を掛けながら室内へ入って行った。
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