やくざと執事と私【第3部 上巻:ラブ&マネー】
「小夜さん。」
うつむく私に、執事が、優しく声をかけた。
「はい。」
まだ、恥ずかしかったが、執事に声をかけられて、執事の顔を見ないわけにもいかず、私は、視線を執事の顔へと向けた。
「小夜さん、恥ずかしがる必要はありません。むしろ、喜ばしいことです。師たる人物の真似をするという事は、素晴らしい学習方法です。・・・成長しましたね、小夜さん。」
「りゅ、龍一さん・・・・。」
私は、執事に褒められ、優しい目で見つめられ、低く心に響く声をかけられ、うれしさでどういう表情をしていいのかわからなかった。
「・・・・・師弟で感動しているところ悪いんだけど、褒めてないよ?」
当然、組長の言葉など無視する私と執事。
「龍一の最悪な部分が、小夜に移っているよって言ってるだけだけど?」
懲りずに言葉を続ける組長。
「・・・・安心してください、小夜さん。私に最悪な部分などありません。」
「知っています、龍一さん。」
自信に満ち満ちた言葉を言い切る執事に、それにうなずく私。
「・・・・俺の話は?」
「まだ、面白い話あるんだけどなぁ~。」
「・・・・組長って、執事より偉いんじゃなかったっけ?」
自分から注目が離れたのが、寂しいのか、組長が、次々に見つめ合う私と執事に声をかけるが、私と執事は、見つめ合ったまま、一切、組長に取り合わない。
私にとって今、取調室という密室は、最高に幸せな空間へと変化していた。